2人の娘のシングルファーザーに?!43歳から始まるセカンドライフ

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装が趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた……。今回は、シングルファーザーとして生活を始めた直後の頃のことを仙田さんが振り返ります。

冷蔵庫と一緒に未来を買った


K11軍曹さんによる写真ACからの写真

シングルファーザーとして2人の子どもたちを育てる生活が始まって、大きく変わったのは時間の経ち方だ。
仕事の他に子どもたちの身の回りの世話、家事に追われているうちに、あっという間に1日が終わる。
ひとつひとつには手間も時間もかからないが、降り積もると膨大な労力を要する仕事がたくさん増えたからで、朝起きてから寝るまで、飛んでくる球を止むことなく打ち続けるような生活が始まったのだ。

京都に帰った直後は実家に身を寄せていたが、すぐに近くに引っ越して、家具や電化製品を買い揃えて生活の基盤を整えた。
当初は冷蔵庫がなく、生鮮食品は段ボール箱に入れて外にだしておいた。
2月の京都は冷蔵庫のなかより寒く、その年は雪が多かったので、牛乳や刺身を庭に放りだしておいても腐る心配はなかった。

だから冷蔵庫はいちばん最後に買ったのだが、店先で悩んだのは、サイズだった。
冷蔵庫の寿命が10年として、その頃には子どもたちは中学生になっている。
どれくらい食べるんだろう、と想像してみたが、見当もつかない。

—大きくなったこの子たちは、病気もケガもしないで元気に生きているだろうか。
—どんな顔をしていて、何が好きで、友達はたくさんいるだろうか。

……妄想は広がっていった。
けっきょく冷蔵庫は、結婚していた頃に4人で使っていたものより大きなサイズのものを選んだのだが、そうすることで未来まで一緒に買った気がした。

子ども服はフリマアプリを駆使

家具の他に、子どもたちの服も揃えなければならなかった。
保育園では毎日、半袖半ズボンで泥まみれになって遊ぶので、デザイン性よりも機能性を重視して、安くて丈夫なものを大量に揃えた。
休みの日にはおしゃれができるように、ワンピースやスカート、カーディガンなども少しずつ集めた。
ただ、かわいいものや素材のいいものは、子ども服とはいえそこそこ値が張る。
そこで、街で見かけたりネットで知ったりした商品はメモっておき、定期的にフリマアプリをチェックトすることにした。

ヘアアクセサリーもたまに買うし、子どものヘアアレンジをネットで調べてさまざまな髪の結び方ができるようになったが、子どもたちは髪を結ぶのを嫌がって、私が結んでもすぐに解いてしまう。
他の子どもたちが可愛らしいヘアアレンジをしているのを見かけると、

—お母さんが家にいて、髪をセットしているのを毎日見てるから抵抗ないんだろうな……。
と自分の子どもたちを不憫に思ってしまうこともある。

ご飯は一緒に作って気持ちまで食べる


夏休みになって学童に通う長女に作ったお弁当

子どもたちの食事を日々作ることも仕事になった。
18歳からひとり暮らしを始め、居酒屋の厨房でアルバイトをしていた私は、料理の基本は知っていたが、結婚してからはほとんど元妻に任せていた。
ほぼ20年ぶりに料理を再開した私が頼ったのはネットだった。

スーパーに行ってその日安くなっている食材を適当に買ってきて、検索するとレシピがでてくる。
最初の頃はクックパッドを使っていたが、当たり外れが多いので、信頼できる料理研究家を探した。
その人の名前と食材を一緒に検索すると、作ってみたくなるレシピがでてくるので、ひたすらそれを再現した。

そのうち勘が戻ってきて、楽しくなった。
居酒屋でアルバイトをしていたときも、皆で順番にまかないを作っていた。
私の番になったときには余った食材を使って、疲れた同僚たちのお腹も気持ちも満たせるものはなんだろうと考えながらフライパンを振った。
そのときと同じように、子どもたちが喜ぶものをと考えた。

手間をかければかけるほど料理は美味しくなり、子どもたちは喜んで食べる。
だが平日には、手の込んだものを作っている暇がない。
短時間でできるものばかりを作っていて、子どもが喜ぶかどうかは二の次になってしまう。

それでも、子どもたちは「美味しい」と言いながらいっぱい食べてくれる。
今年は小学校の休校の期間が長く、長女の弁当を数ヶ月間作り続けることになったが、最初にそのことを知らせたとき、長女は「やった! パパのお弁当美味しいもん」と喜んでいた。
味はともかく、試行錯誤しながら作っているこちらの気持ちまで食べてくれているようで嬉しい。

また、お手伝いをさせることは、楽しく美味しく食べることに繋がる。
野菜の皮を剥いて切ってもらったり、ハンバーグをこねてもらったり、鍋を掻き回してもらったりしているうちに、少しずつ子どもたちのできることが増えていった。
野菜を切るときには隣に張りついて、
—猫の手で(指先を丸めて)野菜押さえて!
—包丁はそんな力任せに押さえないで! 引いて!
と叫び続けなければならないし、ひとりで作るときの倍くらいの時間がかかってしまう。

それでも、自分たちで切ったデコボコの野菜や、ドーナツ形やハート形のハンバーグは格別な味がするらしく、はしゃいでいる子どもたちと食卓を囲んでいると、私が時間をかけて作った料理よりも美味しく感じられる。

車なしでは暮らせない地域に、車なしで暮らす

食材は近所のスーパーで買うのだが、歩いて10分のところにあるので、重いものを買うときなどはリュックサックに入れて担いで帰る。
コンビニまでは歩いて20分、駅までだと30分はかかるので、ちょっとした用事を済ませるだけで半日は潰れてしまう。
約20年ぶりに暮らすことになった実家近くの町は、京都市内の外れにあり、見渡す限り田んぼと畑と山と川しかない。

東京では吉祥寺駅から徒歩10分のところに住んでいた。
目の前にコンビニとファミレスと薬局があり、5分も歩けばスーパーに行けたし、駅前にはファッションビルが立ち並んでいて、2、3分ごとにくる電車に乗れば15分ほどで新宿にも渋谷にも行けたのに……。
引っ越した先は、車がなければ生活できない地域なのだ。

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女装パパが「ママ」をしながら、家族と愛と性について考えてみた。

仙田学

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた。仕事と家事・育児に追われる日々、保育園や学校・ママ友との付き合い、尽きることのな...もっと読む

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sendamanabu cakesの連載。今回は、シングルファーザーとして子育てを始めた頃のことを振り返りました。 >冷蔵庫は、結婚していた頃に4人で使っていたものより大きなサイズのものを選んだのだが、そうすることで未来まで一緒に買った気がした。 https://t.co/8jqz0xX6X7 約1ヶ月前 replyretweetfavorite