恋人と別れて一週間後、私は、女ともだちと傷心旅行に出かけた。傷心旅行なんて言っているけれど、私が恋人と別れたことは、旅行するためのただのいいわけだ。だって、別れたから傷心旅行をする、なんて普通すぎる。普通すぎることをするときは大体、頭を働かせることなくトクをしたいときだけだもの。「旅をして、気持ちを切り替えるわ」なんてうそぶきながら、私は気の許せる女ともだちと、久しぶりに、遠くへ遊びに行けることを純粋に心待ちにしていた。
それに、楽しみを共有している女ともだちと行ってこそ、価値が増すラブホテルの存在を、私はずっと前から知っていた。体を共有できる男の人とではなく、言葉を共有できる女ともだちと、一晩中、発展性のないくだらない話をして過ごすために最適の場所。大阪にあるから、なんでもない日に行くには遠すぎる場所だったけど、私は彼女と訪れる機会をずっと伺っていたのだ。
「こんなん、ディズニーのホテル泊まるくらいやったらこのラブホ泊まるやろ!」
『ローズリップス』の部屋の扉を開いた瞬間、大阪人の彼女はしっかりとツッコミを入れてくれた。
そうでしょう。私は、選んだ部屋が期待通りに完璧であることに安堵した。女の子と行く時も、男の人と行く時も、どのラブホテルにするかは、いつも私が決めている。それで毎回、こんないい部屋見つけられるなんて天才だわって自負しなおしているのだ。今回、もし、期待しているよりもチャチな部屋だったらどうしようって、入る前からソワソワしていたのだ。「どうしよう、緊張する」なんて、これからホテルでヴァージンを失うというわけでもないのに、不安がっていた。
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