親だけが親の力を発揮できない

中学校一年生の子どものことで悩む母親からの相談。楽しそうに学校生活を送っているという息子に対して、どうしてもつらい思いを抱えてしまう母親の悩みに、幡野広志さんはどう答えるのでしょうか。
最終回を迎えた、幡野さんがこの連載を振り返る対話とあわせてお読みください。

※幡野広志さんへ相談を募集しています。専用フォーム(匿名可)からご応募ください。

はじめまして。悩みを聞いてくださりありがとうございます。

我が家には中学一年生の息子がおります。一人っ子の息子は、とにかく可愛いです。
思春期に入りはじめた時期ですが、ぶっきらぼうな態度すら愛おしいです。

主人に似て温厚な性格。優しくて真面目で少し小心者の息子。
小学校での成績と態度を見て担任の先生が四年生のとき、「彼ならおそらく県内トップ校に合格する。今から塾通いをしたらどうか。」との話がありました。
あまり勉強してこなかった私は息子の真面目さに気づいてもらえた事に喜びました。ある子はピアノを習うように。またある子はリトルリーグで汗を流すように。息子にとっての「得意」は勉強なのかもしれないと思い、大手の塾に通わせる事にしたのです。
その後も、息子はただただ努力しました。決して天才型ではないので地道に地道に。そして決して愚痴を言わず前向きに取り組んでいました。努力のかいがあり、常に模試ではトップ。判定もAしかない。塾の先生をはじめ様々な人が息子の合格を信じていました。もちろん私も。本人は、浮かれる事なく最後まで戦いました。

そして、不合格を頂きました。第一希望だけではなく何校も何校も。
息子は、大泣きしたものの1日で気持ちを切り替え(そのように振る舞ったのかも)「縁があった学校で頑張る!」と言い、現に今毎日、友達と遊び競い合いながら勉強やクラブに向き合っています。家族で「努力は無駄にはならないし今の学校も素敵だよね!」なんて話しています。

でも実は私はそれは表向きなんです。「これでよかったんだ」と思う気持ちがないわけではないのに、半年過ぎた今でも私は胸が痛いのです。
時に涙が出てしまいます。あっけらかんとした性格なはずが、こと息子の事になるとグズグズと考えてしまいます。
私自身にたいした学歴があるわけでもない。主人は、全てを大らかに受け止めています。
ただただ息子の努力が、形になって欲しかった。一番通いたかった学校と両思いになって欲しかった。それで笑顔になる息子を見たかった。
そんな事をいつまでも考えている私は、情けない母親です。
子供を持つことは、私にはあまりにも幸せすぎました。あと数年で親の元を離れていくかもしれません。主人と息子との大切な時間を、もっと幸せに暖かくすごしたいです。
いつか私たち両親と過ごした日々が勇気に変わったりお守りのようになったらいいなと思います。
いつまでも前向きとは程遠い思いに支配されている私にアドバイスを頂けたらうれしいです。

(ナナナ 41歳 女性)

人生の岐路でこっちの道にいった人が、あとあとあっちの道にいってればなぁって後悔をすることがあるとおもうんですけど、なぜかあっちの道がこっちの道よりも良いものである前提なんですよね。

あっちの道がいい可能性はありますけど、もしかしたらこっちの道よりもウンコだらけだったり、渋滞をしているかもしれないし、盗難多発地域かもしれないし、マイルドヤンキータウン八王子ぐらい歩きタバコが多いかもしれないのに。

まったくおなじ人生を二周でもしないかぎり、確認なんてできません。もしくは過去にタイムスリップができない以上、意味のない後悔なんだとぼくはおもうんです。意味がないどころか気持ちが落ち込み、いまいる道の否定やそこに立っている自分の否定になるので、負債のような後悔です。

後悔をするよりも、こっちの道があっちよりもマシだとおもっていたほうがよっぽど健康的です。いまの自分の肯定になるからです。それでも後悔をしたい人はすればいいとおもうんだけど、その後悔を人にぶつけたとき、相手によってはダメージを受けます。

本人は楽になるのかもしれないけど、タイムスリップできないかぎり解決できない後悔を聞かされる方は負担になります。ダムが決壊しないようたまった水を放流して、河川に余裕があるときはいいけど、河川に余裕がなければ甚大な被害がでます。

後悔やストレスというのは、ため方と流し方のバランスが大切です。流す場所やタイミング、それから流す量を間違ってしまうと、敬遠されて孤独がはじまります。後悔をした段階で、人はまたあたらしい岐路に立っているとぼくはおもいます。

お子さんは勉強がとても得意なんでしょう、県内トップ校を狙えるということは小学校なら学内トップレベルですが、そんな子たちが集まる県内トップ校では並になります。下手をしたら下になります。もちろんトップを保てる可能性だってあるけど。

これって美大生あるあるや、アイドルあるあるだったりするんです。中学生ぐらいから周囲に天才だと褒め称えられて、美大にいき天才のなかでは凡才になって苦しむ子。かわいいと学校では誰もが振り返るけど、芸能界では普通の子、心ない人からはブスだといわれてしまう子。

もちろんどんな世界にもそういうものはあるんでしょうけど、打ちひしがれて自分を見つめるのもよし、自分を奮い立たせて成長するもよしですが、道の選び方は本人が決めることですよね。道は本人が歩いているわけなんですから。

なにかの才能があるのならば、才能を伸ばす場所や、開花をさせる場所ってとても大切です。その子に合った場所というのは、とても大切なことです。

あなたもぼくにいわれることを覚悟して送ってきたんだろうけど、たった一度の受験失敗で落ち込みすぎでしょう。息子さんご本人が落ち込むならわかります、でも息子さんは学校でたのしく生活をしているわけですよね。勉強が得意という才能をいまいる場所で伸ばせばいいじゃないですか。

あなたが落ち込むことは、息子さんにとっては重りのついた足かせにしかなりません。本人が進んでいるのに親であるあなたが足を引っ張ってる。キツいこといいますけど、足手まといっていうんですよ。

息子さんの学力をあなたのアイデンティティにしてしまったせいで、不合格がアイデンティティの否定につながっているのだとおもうのですが、本人ががんばることを応援することと、自分の願望を子どもに課すことはまた別ですからね。県内トップ校に入学することはあなたの願望でしょ。

どっちにしても過去にはタイムスリップできないので、あなたの落ち込みと後悔って最高に無駄な負債ですよ。あなたの負債になっているどころか、息子さんの負債にもなっています。まじで、やめたほうがいい。

あなたがグズグズと落ち込んでいれば、息子さんの立場からすればお母さんを自分のせいで落ち込ませていると感じます。息子さんの前であなたは落ち込みを隠しているつもりかもしれないけど、息子さんは間違いなく気づいています。気づかないわけないよね。

「家族で『努力は無駄にはならないし今の学校も素敵だよね!』なんて話しています」、これは確かにそうなんだけど、もういわなくていいです。

これは一つの物事に対して、一度だけ切れるカードです。そしてその有効性は、カードを切るまえから、いろんな物事においてこのカードを切っていた実績が必要です。実績がない状況でこのカードを切りまくっていたら、ただのJ-POP系励ましです。下手したら嫌味と捉えられかねませんし、プレッシャーにもなりかねません。

これはあなたが誰かからかけられたい言葉でしょう。息子さんはすでに学校をたのしんでいるので、この言葉はもう効果的ではありません。あなたが落ち込んでいるから有効なだけです。薬ってのは体調を崩している人が服用するから有効なのであって、健康な人が服用すれば有害になりかねません。言葉も一緒です。

余談ですけど、ぼくはさいきん「強がらないで泣いてもいいんだよ」っていわれたんです。バカじゃない?っておもいましたし、お前が泣いてほしいだけだろっておもいました。JーPOP系励ましって罪です。本当に泣きたくなるくらいすんごい苦しいときは効果的かもしれないけどね。

あなたの最高に無駄な後悔は、息子さんからすれば咎められている感覚だし、息子さんがいまいる道と受験に落ちた息子さんの否定になります。いいことがなんにもないよ、100歩譲って息子さんはお母さんのためにがんばるという気持ちになるのかもしれないけど、それってただの余計なプレッシャーになるだけだよね。

「あと数年で親の元を離れていくかもしれません。主人と息子との大切な時間を、もっと幸せに暖かくすごしたいです」ってありますけど、いまの状態をずっと続ければ息子さんはお母さんがウザいからさっさと家を出たいって考えるでしょう。

もしくは自分の好きなことがわからなくなって、就活あたりでやりたいこともなにも見つからず、自分が分からなくなって苦しむパターンもあります。あなたが落ち込むことにメリットがなにも感じられません。

そもそも、どうして模試では常にトップでA判定なのに、複数の学校で不合格だったんでしょうね。名前を書いたら入学できる学校にしかいってないぼくですら不思議におもうんです。

落ちたのにはきっと理由があるとおもうんです、そんなに何校も落ちるのはすこし不自然ですよね。めちゃくちゃ本番に弱くて本領を発揮できないとか、面接が苦手だったのかもしれないし。学校の先生も塾の講師も、親であるあなたも合格を信じていたなら、本当の理由や原因は息子さんしかわかりません。

もしも受験を失敗と捉えているなら、その失敗の原因を調べて改善や克服をして、次にいかせばいいだけです。失敗のあとにあるのはだいたい成功です。失敗したときに必要なのは改善であって、後悔や落ち込むことではありません。

でもあなたが理由を理解したり原因を解消しなくてもいいともおもうんです。それは息子さんが自分でやることです。それに息子さんはすでにそれをしているとおもいます。息子さんっていま成長をしているんですよ、立派じゃないですか。ただ、その成長にすらあなたの後悔というのは負債なんです。

多方面の反感を買ってしまうことをいいますが、あなたのような人はたくさんいます。塾の講師や学校の先生はあなたみたいな人をたくさん見ています。小児科の先生や看護師さんや保健師さんもたくさん見ています。ぼくは撮影業界の人間なのでステージママでそういう存在をたくさん見ています。ぼくの妻は幼稚園と保育園で勤務経験があるのでたくさん見ています。

子どもに関わる業種の方は多かれ少なかれあなたみたいな人をみています。共通点は子どものことで必死になりすぎるということです。我が子のことなので必死になるのは当然ですよね。ぼくだって子育てをしています、気持ちは重々わかります。

でも子どもに関わる業種のプロの人たちは、親ほど必死にはならないですよね。冷静に職業人としてのパフォーマンスを発揮できていると感じます。不思議なことに、必死になった親が語る子どもの評価や人物像と、その子どもに関わるプロの人たちの評価や人物像って違うんですよね。

必死になりすぎた人は、共感をしてほしくて相手にも必死さを求めて、感情や評価の温度差に怒ったりすることがあります。だから親が過度に必死になったときに、孤独が始まると思っています。

我が子のことって必死になりがちです。だからこそ意図的に冷静になって1歩も2歩も100歩も引いてあげないと、親として必要なパフォーマンスが発揮できないですよね。グズグズ落ち込むことを急にやめたらそれも息子さんには違和感なので、徐々にゆっくりで変えていけばいいんじゃないですか。

「主人に似て温厚な性格。優しくて真面目で少し小心者の息子」って書いてあるけど、すごくいいじゃないですか。お母さんであるあなたがこれをいえるって、旦那さんとの関係もいいのだろうし、息子さんのいいところに気づけているわけですよね。

あなたの通常のパフォーマンスが発揮できればなにも問題ないでしょ。息子さんの努力はこれから形になります、ご安心を。キツいことも書いちゃいましたけど、ぼくはぜんぜんあなたのことを悪い人だなんておもわないですよ。

今週の幡野さん

ブリトーを注文したらチキンですか?ポークですか?って聞かれました。
ポークはとも食い感があるのでチキンにしたら、お米とあんこが入ってました。
チキンですか?ポークですか?おはぎですか?って聞かれて、おはぎって答えたっけ?
店員さんに確認する勇気もなかったので、ぼくがチキンという現代アートなんだとおもいました。


この連載について

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幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。

幡野広志

写真家・幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液のガンを発症し、医師からあと3年の余命を宣告されました。その話を書いたブログは大きな反響を呼び、たくさんの応援の声が集まりました。想定外だったのは、なぜか一緒に人生相談もたくさ...もっと読む

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InfoNursery1 #保育 #こども #知育 2020年08月10日 14時01分 約1時間前 replyretweetfavorite

haru09267867 https://t.co/TKwAs5Fcq6 約2時間前 replyretweetfavorite

yamachin_nu |幡野広志 https://t.co/V5oB4otGJh 息子の得意なものは勉強。中学受験に落ち込む子供にどうすれば。 子供がしたいモノを見つけてきたのか実は親がやって欲しいと望んだモノか。で答えが変わる。 相談者はどっちと思います? メモ。 約5時間前 replyretweetfavorite

tgkr 息子さんは相談者が思っているよりもずっと大人だと思う。うまく言えないけど相談者は息子さんを信じてあげてほしい。 約5時間前 replyretweetfavorite