タフな男らしさ」に変革をもたらす黒人スターたち

いま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これからの「父性」「男性性」を軽やかに考えるエッセイ連載第12回。久々の更新、大変お待たせいたしました…! 既成概念をほぐしてみせる黒人スターたちの姿に迫ります。

イラスト:澁谷玲子

ステレオタイプを壊すエミー賞俳優

最近レッドカーペットを盛り上げているスターといえば、俳優ビリー・ポーターの存在は欠かせない。金キラの羽つきゴールデンスーツ、中絶禁止反対を訴えるために子宮をあしらったドレス、電動でカーテンが開く仕組みのカウボーイハット……毎度人びとのド肝を抜く奇抜なファッションを披露してくれる彼。半裸の男たち6人に神輿で担がれて登場したMETガラ(ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されるファッションの祭典)は笑ったなあ……。

とりわけ話題になったのは、2019年のアカデミー賞で身にまとった「タキシード・ドレス」だった。気鋭のデザイナーであるクリスチャン・シリアノが手がけたその衣装はタキシードとガウンドレスをエレガントに融合させたもので、つまり、伝統的な男性性と女性性が混ざり合っている

ポーターはゲイであることを公言している黒人男性としてはじめてエミー賞の主演男優賞を受賞しており、かねてから「社会が求める男らしさに変革をもたらしたい」と語っていた。そしてあるインタヴューでは、「黒人で、ゲイであるなら、男らしさという問題を抱えることになる」と発言している。そして自分は、「男らしさは優れている」という価値観において、いつものけ者であったと。

折しもその年のアカデミー賞は、司会を務めることになっていたコメディアン/俳優のケヴィン・ハートが過去におこなっていた同性愛嫌悪発言が問題となり、司会を辞退する騒動に発展したことが話題になっていた。彼が黒人であることから、LGBTQコミュニティの黒人当事者からは、ブラック・コミュニティに同性愛嫌悪がいまだ根強いことを表す出来事だという声もあがっていた。

過去の失言が掘り起こされてSNSを中心に社会的に過度に糾弾される、いわゆる「キャンセル・カルチャー」の問題もさることながら、「今回の騒動を巡る議論は、黒人男性が同性愛嫌悪的であるというステレオタイプを補強しかねない」という記事を読んですっかりうなだれていた僕は、颯爽と人種とジェンダーを巡る既成概念をほぐしてみせたポーターに励まされる想いだった。変わっていることもきっと、たくさんあるのだと。

自ら過剰に「強い男」であろうとすること

けれども、黒人男性と男らしさの問題はそう簡単ではない。

2020年のグラミー賞では、オープンリー・ゲイのラッパーのリル・ナズ・Xによる「ピンク・カウボーイ」のスタイルが話題になったが、ベテランラッパーのパスター・トロイがそれに難癖をつけた上で、ファミリーレストランで同性カップルを見た自分の息子が嫌悪感を露にしたエピソードを取り上げ、そのことを「誇りに思う」とインスタグラム上でコメントした。

やつらは、男から、とくに黒人の男から男らしさを奪おうとしている。みんな第三の目を開いて、自分の息子たちに何が真実かしっかり伝えたほうがいい

このコメントは当然大批判を浴び、投稿を自ら削除することになったのだが、とくに気になるのは「息子」がダシにされていたことだ。ケヴィン・ハートの問題となった発言も、「もし息子が家に帰ってきて娘のドールハウスで遊ぼうとしたら、俺はそれを息子の前で壊して『やめろ。それはゲイだぜ』って言うね」というものだった。息子の世代に男らしさが「正しく」継承されないのは、我慢ならないというわけだ

ヒップホップ/ラップをはじめとしたブラック・カルチャーにおいて、とりわけ発信者が男性である場合に、女性蔑視や同性愛嫌悪がしばしば見られることはかねてから問題になってきた。黒人男性が(白人男性に比べてさらに)タフガイであることがクールとされることが多いのは、白人側から黒人男性に対しての性的な期待を内面化したことによるものであるとの指摘もあり、ことは複雑だ。

さらに難しいのは、社会全体が黒人男性に対して「暴力的である」「性的に旺盛である」というステレオタイプを押しつけていて、それが差別や偏見に結びついている面があることだ。だから、黒人男性が自ら過剰に「強い男」であろうとすることは、ある意味ではこの社会にいまも根深く残る人種問題と繋がっている

繊細で内省的な表現が支持を集める

だけど、さっきのリル・ナズ・Xもそうだけど、近年はとくに若い世代からどんどん変化していると思う。とくに象徴的だったのは、ヒップホップ・シーンに身を置くシンガーのフランク・オーシャンが2012年のアルバム『Channel Orange』リリースに際して同性に恋をした経験を公表し、そのことを楽曲のテーマにしたことだ。彼のカミングアウトはシーンにおいて画期的なことだとメディアから称賛されるとともに、ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターが「俺のブラザーがついにやった。すごく誇りに思う」とツイートしたり、ビヨンセがオーシャンを讃える詩を発表したりと、周囲のアーティストからも支持されることとなった。

そして多くのひとの心を掴むことになったのは、ほかでもない彼の歌だ。失恋の痛みをそのままメロウな曲調でさらけ出したラヴ・ソングは、聴く者のジェンダーやセクシュアリティも人種も超えて、広く共感されることになった。実際のところオーシャンの歌はとても多面的で、自信たっぷりの攻撃的なところも深く傷ついた内省的なところも含んでおり、いわゆる「男らしさ」に隠されてきた男性の内面の複雑さや奥ゆきを表現している。

あるいは、2016年に公開された映画『ムーンライト』もまた、同性に恋をする黒人少年を主人公とし、「(黒人男性における)男らしさ」をテーマにした作品だった。

振る舞いが「男らしく」ないためにブラック・コミュニティ内で疎外されて育ったシャイロン少年はやがて、ゴリゴリに身体を鍛え、金歯をはめたドラッグ・ディーラーとなり、典型的なタフガイに成長する。映画はラストで、シャイロンが身につけた鎧の下には繊細さが残っていたことを明かすのだが、それは彼が弱さや傷つきやすさを隠して生きてきたことを表している。

そんな彼の姿に多くのひとが共感を抱いたことは、いままで世間があまり目を向けてこなかった黒人男性の繊細さや傷つきやすさが広く受け入れられつつあることを示しているだろう。アカデミー賞の作品賞を本命だった『ラ・ラ・ランド』を下して受賞したことは多くの驚きとともに話題となったが、それだけ時代に即した主題であることの表れだ。

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ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん

木津毅

「おっさん=悪いもの、古いもの、いまの社会の悪しき土台を作ったもの」とされている今日この頃。ではいま、「おっさん」はどこへ行くべきなのか? 時代に合わせて生まれつつある「あたらしいおっさん=ニュー・ダッド」たちの姿を見つめながら、これ...もっと読む

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コメント

N2aoS https://t.co/Uno3s7RvBd https://t.co/gfXKScZjuo 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

mick3sun ビリー・ポーター、好きです。彼のファッ… https://t.co/qrYYaLazsi 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

K10044654959 よし、画期的な映画を思い付いた。クリント・イーストウッド(強い白人男性像の象徴)とモーガン・フリーマン(強い黒人男性像の象徴)が実はゲイで付き合ってたという話 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

toukajuri これも面白かった! 約2ヶ月前 replyretweetfavorite