「エビデンスがない=間違っている」わけではない
具体的な事実や信頼できる統計データ。こうしたエビデンス(科学的根拠)をしっかり提示して「だから〇〇だ」と主張する。これは大事なことです。
しかし、全ての主張(と言うより自分が受け入れられない主張)にエビデンスを求め、「エビデンスがないなら、お前の言ってることは間違いだ」と断じることが正しいわけではありません。これが「無知に訴える論証」という屁理屈です。ここで「エビデンスを求めるのが、なぜ屁理屈なんだ」と思った方もいるかもしれません。では、次のようなことを言われたらどうでしょう?
「君は『宇宙人は地球には来ていない』と言うが、来ていないという証拠はどこにもない。ということは、宇宙人は地球に来ているということだ」
これが典型的な「無知に訴える論証」です。ここで気づいた方もいるかもしれません。この例えは、「悪魔の証明」と呼ばれるものです。
何かが「真実である」ことは、それこそ複数のエビデンスによって帰納的に証明することはできますが、「真実でない」ことは証明不可能か、可能ではあっても困難なのは明らかです。
先の「宇宙人は地球に来ているかどうか」も、「来ていない」ことを証明するに足るエビデンスを揃えることは、非常に難しいでしょう。
そして、たちが悪いことに「無知に訴える論証」を悪用する人は、「証明できない=間違い」と決めつけ、それをもってあたかも自説が証明されたかのように主張することです。宇宙人の例で言えば、本来は「地球に来ている」「来ていない」の他に「わからない」という3つめの選択肢があるはずなのに、「来ていないことを証明できないのであれば、宇宙人は地球に来ているということだ」と決めつける。極端な二択に問題を単純化して相手に選択を迫る「誤った二分法」という屁理屈を併用した巧妙な屁理屈です。
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