どうも。
……マジでビビってるんですけど……え……もう8月っすか?!
え、もしかしてアレ、開けちゃったかしら、玉手箱……時の流れがセスナ。マジセスナ。夏真っ盛りですな。
……さあてレッツゴー♪
ミセスミッチー“B”
少しずつ、お芝居で演じる配役が「○○の男①」や、「○○兵士B」の様なアンサンブルから、「イクエイフク」や、「パソンの兄」など(前話参照)など、個人名になってきた頃……
次に挑むことになったのは、花組大劇場公演『麗しのサブリナ/EXCITER!!』。
香盤表を確認しに行くと、ショーパートである『EXCITER!!』で、「ミセスミッチーB」という役名が目についた。
芝居では個人名を頂けるようになってきたが、ショーでは専ら「踊る男」集団専門だった私は、何かの間違いなんじゃないか、と思った。 なんなら、隣の生徒の配役がうっかりずれちゃったのかな?と思っていた。
自分の名前の所に指を置き、そこから下へなぞっていく……やっぱり、自分の名前の欄に「ミセスミッチーB」がある。何度も何度も確認したがやはり、自分の名前の欄にある。
……つうか、「ミッチー」って明らか私の芸名から取ったっぽいし……
悶々と悩んでいると、同期の月野姫花(つきの・ひめか)が、
「私、ミセスミッチーAだから。よろしく」
と声をかけてきた。
姫花とぺ、ペア?! あの、同期1美し可愛い姫花とデュ、デュオ?!
てか、姫花がAで、私がB? なんだ? AとBって……血液型?
一体何が起きたのかわからず悶々としている所に、助手の先生がやってきて、
「天真さんの分です」
と、譜面と衣装デザインの入った封筒を渡された。
基本、プロローグやパレードなど、全員で歌う場合や、複数名のコーラスなどの譜面は稽古場の机に置いてあり、自分で取りにいく事になっている。
なので、助手の先生から直接封筒を頂くということは……
ソロ歌唱がある……!!??
ほぼほぼコーラスでしか歌ったことの無かった私は、ショーの初めてのソロの予感に、「マジか!」という喜びの舞と、「いやいや無い無い」という、予想が外れた時のための心の準備とでガクブルし、震える手で封筒を開け、中の譜面とデザイン画を取り出した。
すると……まず目に飛び込んで来たのは、「トロピカル☆エメラルド☆超巨大ムームー姿の自分」が描かれた衣装デザイン画だった。
それを見て一瞬で悟った……ああ、ミセスミッチーBのビーは血液型ではなく、「ビフォー」のBなんだ……と(どんな場面か知らない方は是非エキサイターを見て頂きたい)。
この瞬間、自分の中で「ミセスミッチーB」の方向性がはっきりと見えた。
その後歌稽古になり、その場面で歌っている出演者が上級生順に前から順番に並ぶ中、ソロパートがある者は最前列に並ばなければいけないので、上級生の方の前に立って歌稽古を受けることになった。
姫花も一緒なら心強かったのだが、姫花は私の「アフター」の姿という、いわゆる「概念」なので、音声は私が担当する。
私はたった一人、壮一帆(そう・かずほ)さんや愛音羽麗(あいね・はれい)さんが座っていらっしゃるのと同じ長椅子に座ることになった。
生まれて初めてスターさん方とお席を共にし(言い方)、緊張で心臓が口から出そうになっている私に、トップスターの真飛さんが、
「おお! 何?! たそ、シンガーじゃん」
と明るくお声掛けしてくださった。
すると壮さん、愛音さんも「すごいやん! スターやん!(笑)」と面白明るく囃し立てて下さった。
スターさん方の優しいお心使いに泣きそうになりながら、私は精一杯気持ちを込めて歌った…… 唯一の歌詞である「♪アロハオエー」と……(どんな場面か知らない方は以下略)。
「ミセスミッチーB」は最初、スタンドマイクをセンターに置いて歌う。
この、「センター」に置く。
という行為そのものが生まれて初めてだった。
センター。
それはトップスターさんだけが立つことが許された場所、という認識でいたので、自分なんぞがセンターに立っていいものか、本当に不安だった。不安でしかなかった。
だが、振付の時もスターさん方は「ドセンターじゃん! すごいじゃん!」と暖かい言葉をかけて下さった。
スターさん方は、自分がのびのびと演じられる環境をいつも作って下さる。
「緊張して遠慮がちに立つのではなく、堂々と怪しく立ちはだかろう」
と、私は覚悟を決めた。この瞬間、自分の中で、「ミセスミッチーB」の詳細な演技プランが見定まった。
本番、デザイン画の5倍はあろうハイパー大きなムームーを着こなすために、中に胴布団と呼ばれる、身体を大きく見せるための綿入りベストみたいなやつを着こみ(これだけだとぱっと見マシュマロマンみたいだった)トロピカルなアクセサリーに身を包み、「これが、私の為だけに作られた衣装なんだ……」と、スリスリスリスリと衣装をさすり(ここまで着るとぱっと見マツコ・デラックスみたいだった)、日々「ミセスミッチーB」を演じた。
「ミセス」として男役が女性役を演じる際は、より男前に、より大きなスケールで、より豪快に。いつもより更にがに股を心がけ、センターに「怪しいオーラを放つ大きい(物理)存在」でいられるように努めた。
するとこの公演で、これまでとは比べものにならないくらい、沢山の方に自分の存在を認知してもらえるようになった。
今までは、自分の出演場面を人に説明するとき、「○○さんが歌っているときの後ろから2列目の向かって右から3番目にいるよ」という細かい説明を事前にして、それでも一瞬の出来事で見逃してしまって「どこにいたのかわからなかった」と言われる始末だったのだが、
今回は、「センターでエメラルドグリーンのムームー着てアロハオエーって歌ってるよ」と言えば一目瞭然で、しかも絶対に見逃されることは無い。
ショーの演目で、こんなに自分の存在を覚えてもらえたのは初めてだった。
新たな手ごたえを感じ、少しだけ前に進んだ気がした。
そんなある日の終演後、廊下を歩いていると、月組の龍真咲(りゅう・まさき)さんに「あなた、名前なんていうの?」と突然呼び止められた。
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