仕事で焦ってまわりが見えなくなる自分、ほんと嫌です

ここはカフェ「しくじり」。一見さんお断りの会員制だ。
ここでの通貨はしくじり。客がしくじり経験談を披露し、それに応じてマスターは飲み物や酒を振る舞う。 マスターは注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を持ち、過去に多くのしくじりを重ねてきた。しかしある工夫で乗り越えてきた不思議な経歴の持ち主。会員のために今日もカフェのカウンターに立つ。 そんな奇妙なカフェのお話。
(初回はこちら

(カラン、コロン〜♪)

りんだ「こんにちはー!」

小鳥遊 「りんださん、こんにちは。おや、今日はそんなに落ち込んでいるようには見えませんね……なんでウチに来るんですか」

りんだ 「いつも落ち込んでるキャラじゃないですよ! それにお客が来てるのに『なんで来るのか』はおかしいですよ」

小鳥遊 「しくじりっ気のない方には興味がなくて。当店にとっては、しくじりをお持ちでない方は無銭飲食みたいなものです。それでもご来店されたということは、何かいいしくじりネタが入ったのかと期待していまうのですが……」

りんだ 「……ふんっ。小鳥遊さんがツイッターで『最近のしくじりネタは手応えがないな〜』なんてつぶやいてたから、ネタを提供してあげようと思ってきたんです! 」

小鳥遊 「おお! ありがとうございます。では、りんださんのしくじり、じっくり聞かせていただきますね」

****

りんだ 「この前来た時は、手順書をしっかり書いてウンザリするのはしょうがない。そこからがスタートだって教えてもらったじゃないですか」

小鳥遊 「たしか……『やらなきゃいけないことを書き出したら嫌になってしまって、結局会社パンフレットの社長挨拶に愉快な誤植をしてしまった』でしたね」

りんだ 「なんでそういうことばかりちゃんと覚えてるんですか……。まぁ、いいや。それで反省して、いろんな仕事の手順を、書き出し始めてみたんです」

小鳥遊 「素晴らしいじゃないですか」

りんだ 「でも丁寧に手順を書き出していたら、早く仕事に手をつけて終わらせたい! っていう衝動にかられちゃって。全部書き出す前に、作業を始めてしまったんです

小鳥遊 「なるほど……」

りんだ 「そのときはたしか……そうそう! ウチの会社で作っているおもちゃの発注をいただいたときの話です」

小鳥遊 「どんなおもちゃですか? 」

りんだ 「AIを駆使して、夜中にランダムで髪が伸びる機能付きの人形です 」

小鳥遊 「ちょっと部屋には置きたくないおもちゃですね……」

りんだ 「でも結構売れてるんですよ。人を感知したら、目が光るっていう追加機能もあります。ご希望のお客様に対応させていただいています」

小鳥遊 「……好きな方は好きでしょうね」

りんだ 「今回、あるお客様から追加機能を搭載した人形の発注をいただいて、とても嬉しかったんです! でも私、とても忙しくて……。他の注文や突発作業も平行して対応していたら、ケアレスミスで手戻りが発生したり、何からやればいいかわからなくなっちゃたりして……」

小鳥遊 「パニックになってしまったんですね」

りんだ 「はい。追加機能の搭載を工場へ依頼するという、いちばん大事な連絡が抜けてしまったんです」

小鳥遊 「聞いているこちらも、思わず冷や汗が」

りんだ「結局、追加機能が搭載されないまま、人形はお客様のところへ送られてしまって。お客様から『髪は伸びるが目は光らない。楽しみにしていたのにどういうことだ!』とお叱りを受けてしまったんです(泣)」

小鳥遊 「世の中には奇特な方もいるんですね……」

りんだ 「?????」

小鳥遊 「いや、失礼しました。たくさん仕事を抱えると、一つ一つをどう進めるかなんて覚えていられないですよね」

りんだ 「細かく仕事の手順を書いていると、『こんなことやってる場合じゃない。早くやらなきゃ』って気持ちになるし。でも手順書がないと、『あれ次何やるんだっけ? これでいいんだっけ?』って不安になるし、実際ミスも連発しちゃうし……。またパニックになるのは嫌です!」

小鳥遊 「わかります。その壁、私もよくぶち当たっていました」

りんだ 「え、そうなんですか?」

小鳥遊 「ちょうどよかった。今日はりんださんにぴったりの食事があるんです。少々お待ちくださいね」

りんだ 「今日こそはカフェらしいメニューが出てくるのかしら……」

****

小鳥遊 「お待たせしました。隣の部屋にバイキングの準備をしました」

りんだ 「ええっ!?  バ、バイキング?」

小鳥遊 「このあと貸切パーティーがあるんです。私うっかりしてかなり多めに食材を発注してしまったので、少しでも召し上がっていただけると助かるんですが」

りんだ 「全部とても美味しそう! しかもカレーもある! 私、カレー大好きなんですよ。バイキングで出てくると得した気分になって、ついたくさん取っちゃうんですよね」

小鳥遊 「そうですね。他の料理も美味しいので、ぜひいろいろ食べてみてくださ……あ、もう取りに行ってしまいましたね……」

りんだは皿にレッドカレーを盛り、席に戻り夢中になって食べている。

りんだ 「んーっ! 小鳥遊さん、このカレー美味しいです!」

小鳥遊 「ありがとうございます。カレーも数種類ご用意していますし、他の料理もよろしければお召し上が……あー、取りに行ってしまいましたね。そして、またレッドカレーですか……」

黙々とレッドカレーを食べ続けるりんだ。しばらくして、りんだが口を開く。

りんだ 「小鳥遊さん、カレーって美味しいんですけど、お腹にたまるんですよね」

小鳥遊 「レッドカレーだけ召し上がってますしね。グリーンカレーもありますし、他の料理でローストビーフやピザ、スモークサーモンやキッシュなどもありますよ」

りんだ 「えー!? キッシュ私大好きなんです! でも……ウップ……ちょっとこのカレーでもうお腹がいっぱいかも」

小鳥遊 「フフフ、それほどレッドカレーを気に入っていただけましたか」

りんだ 「でもキッシュ食べたい……うう……」

小鳥遊 「とりあえず、一休みしましょうか」

小鳥遊はコップ一杯の水をりんだの前に置いた。

****

りんだ 「私、いつもこうなんです」

小鳥遊 「これだ! と思ったものだけ進めてしまって、ふとした瞬間我に返ってどうしたらいいか分からずに、パニックにおちいってしまうんですよね」

りんだ 「どうしてわかったんですか!? 弊社の素敵な人形を間違った仕様で送ったときもそうでした」

小鳥遊 「素敵な人形ですか……」

りんだ 「ん? 何か言いました?」

小鳥遊 「いえいえ。 たくさんのやるべきことが並ぶと、早く手をつけなければいけないと焦ってしまうものです。まずはそれぞれをどのように実行するかを決める。そして、一歩ひいて全体を見る。それが大事だと思います」

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カフェ「しくじり」へようこそ

小鳥遊 /りんだ

発達障害でありながら一般企業に勤める小鳥遊(たかなし)さんが、カフェのマスターに扮して仕事の悩みに答えるストーリー連載。「安心して仕事ができるようになる、安心して会社に行けるようになる」を目指す、世界でいちばん意識低い系のビジネス連載です!

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juni_ca_wa_ii 毎回、理解も共感もできないので… https://t.co/XqhNsyDaC2 4ヶ月前 replyretweetfavorite