大阪酒日記1天満~中津~新今宮

東京で生まれ育ち、数年前に大阪に転居したライターのスズキナオさんが、大阪をはじめとする味わい深く個性豊かな酒場の数々や酒にまつわるエピソードなどを通じて関西の土地や文化と出会う。『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』も話題の”ウェブライターの真打ち”が満を持して「酒と関西」に向き合います! 今回は酒にまつわる日々を綴った「酒日記」です。(毎週水曜・土曜更新)

ある日。

大阪・中津にあるミニコミ専門書店「シカク」(現在は大阪・西九条に移転している)の店番の仕事。今日は珍しくお客さんがひっきりなしに来て、なかなかに忙しかった。働き疲れた帰り、どうしても飲みに行きたくなり、Cさんに声をかけてみる。「軽くなら行けます!」との返事があり、天満駅で待ち合わせ。

今日はちょっと思い切って初めて入る店にチャレンジしてみようということになり、商店街から離れた少し静かな一角にある「居酒屋もりもり」という店へ。店内へ入ると、細長い敷地の奥に向かってカウンターが伸びている。先客はおらず、我々が入っていくと割烹着姿のおかみさんがパッと席を立って歩いてきて、店の中ほどに置かれているCDプレイヤーを止めにきた。流れていたのは「ゆらゆら帝国」のアルバム『空洞です』だ。「いや、ゆらゆら帝国、僕も好きなので止めないで大丈夫ですよ」と言うと、「じゃあ、いいですか、かけておいても」とカウンターの中に戻って行った。「どうしてだか、この音楽が好きなんです。自分が変態なのかと思って、不安になるけど……」と、恥ずかしそうに言っていた。「いやいや、全然そんなことないです!」と言いつつ、割烹着姿の「ゆらゆら帝国」の取り合わせはちょっと妙で、面白く思えた。おかみさんが出してくれる抜群に旨いお通しを食べながら、大好きな曲『できない』とかを聴くひととき、最高である。しかしこの店、壁をみると演劇系のチラシが貼ってあったりして、よくよく聞けば、店内で小劇団が演劇を上演したりすることもあるんだとか。やっぱりおかみさんは少し変わった人なのかもしれない。あれこれ話しているうちに明るい気持ちになり、23時頃解散。

ある日。

東京から大阪に遊びに来ているTさんが中津「シカク」まで遊びに来てくれた。久々に会えてうれしい。19時に店を閉め、飲みに行くことに。前々から気になっていた「3ちゃん屋」というたこ焼きの屋台へ行ってみる。地下鉄中津駅の近くにあって、日中は何もないスペースに、夕方になるといつの間にか現れる屋台が「3ちゃん屋」で、マンガ『孤独のグルメ』にも登場したことがあるとの噂を聞いた。これまで屋台の横を何度も通りかかったことがあり、そのたびにシートの向こうに楽しそうに飲んでいる人の姿が見えて、いつか行ってみたいと思っていたのだが、常連さんが多そうで一人で飛び込む勇気がなかった。今日はTさんと一緒なのでいい機会。思い切って入ってみれば、くしゃっとした顔で笑う大将がいいキャラで、「いらっしゃーい、飲んでってー!」と明るく迎えてくれる。メニューはたこ焼きとセルフでクーラーボックスから取ってくる缶ビールと缶チューハイのみ。たこ焼きは一皿15個入りで500円。缶ビールも缶チューハイも一缶500円。酔った状態でも簡単に計算できる分かりやすい価格設定だ。

大阪でたこ焼きを食べるまで、たこ焼きと言えば「外はカリッとして中がふわふわでタコがでっかい」という、まん丸の形のものがよしとされていると思い込んでいた。みんなそういうたこ焼きが好きで、当然、大阪で美味しいといわれるたこ焼きはその路線を極めたものなんだろうと思っていたのだが、全然違った。大阪ではたこ焼きは「家で食べればいいもの」だったり「おやつがわりに適当に買ってくるもの」だったりして、つまり、「こうじゃなきゃいけない!」みたいなこだわりから遠い食べ物だと認識されているらしいのである。だから大阪の人に「どこのたこ焼きが美味しいですか?」と聞いたりしても、相手をすごく困らせることになる。「どこが美味しいとか、特にないわぁ」みたいな回答が多いはず。ここ「3ちゃん屋」のたこ焼きも「最高!ここのたこ焼きが一番だ!」みたいなものではなく、すごく人懐っこい、家庭的なものである。もちろん旨い。ビールがグングン減る味だが、調子に乗って何缶も飲むと結構なお会計になってしまうので気をつけつつ飲む。それにしても、お話し好きの大将の話題がずっと下ネタである。飛田新地がいかにすごいかという話を二人で「へー」と聞きつつ過ごす。

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関西酒場のろのろ日記

スズキナオ

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