少女」見るものを中毒にする、妖艶なる謎

6月に青幻舎から出版された、写真家・青山裕企さんの最新作『少女礼讃』。素性のわからない一人の「少女」を、2年間休むことなく撮影し続けた本作は、その時間の厚みを表すかのような512ページの大作として完成しました。本連載は昨年、書籍の発売前から『少女礼讃』の作品群を見ていた弊社社員4名に対し、青山さんが行ったインタビューを掲載していくものです。

はじめに

2018年の夏、Instagramにひっそりと開設された謎のアカウント「少女礼讃」。毎日投稿される大量の写真には、すべて同じひとりの女性が写っていました。この撮影者名も被写体名も不明のアカウントは、写真家・青山裕企さんによるもの。その尋常でない更新スピードと、執拗に「少女」だけを撮影し続ける異様さは、見るものの胸中に名状しがたい感情と憶測を生じさせました。

当時よりアカウントの正体を知り、一種の「少女」中毒に陥っていたnote株式会社の一部社員たち。新しい写真が更新されるごとに「この少女は誰なのか」「青山さんと少女の関係は」「そもそも『少女礼讃』とはなんなのか」 と大いに翻弄されました。

2019年に、青山さんがこのうち4名に対し行ったインタビューに見える当時の混乱ぶりと、完成した『少女礼讃』を読み、それぞれが手にした「『少女礼讃』とは何だったのか?」の答えを、全4回でお届けします。一人目の少女中毒者は、cakes編集長・大熊信です。

“少女礼讃”は、“得体の知れなさ”が、作品テーマのひとつである

青山裕企(以下、青山) この“少女礼讃(しょうじょらいさん)”という作品は、2018年の夏から撮りはじめて、秋頃からnoteを中心に発表しています。あえて自分の名前を伏せながらInstagramでも更新しているのですが……率直なところ、どうですか?

cakes編集長・大熊信(以下、大熊) 率直に……難しいんですけど、良くも悪くも惹きつけらるのは間違いなくて。Instagramで僕は見てるのですが、Instagramってパーソナライズされていて、よく見ているアカウントの画像が、アプリを開いたときにトップに表示されるんですよね。僕の場合、“少女礼讃”ばかりがトップに出るぐらいは見ています(笑)。

青山 更新スピードも、意図的にすごく速くしているんですね。“少女礼讃”は、ひとりの謎の少女をすごい頻度で撮って、すごいスピードで発表するという、“得体の知れなさ”が作品テーマのひとつなんです。なので、noteは原則毎日更新(電子版)しながら有料マガジン(愛蔵版)も更新していて、Instagramは気付くたびに一日に何度も更新しています。すべて私の手作業です。

大熊 そうなんですか!? ……アシスタントさんとかではなく?

青山 完全に自力で(笑)。自動投稿のほうが楽だと思うのですが、特にInstagramは、今まで積み上げてきた自分のキャリアを外して、純粋に写真だけで見てもらいたくて、0フォロワーから始めて一枚ずつ地道に更新しています(2020/7/31現在、約23,000フォロワー)。写真をはじめた頃の、エモい感覚に戻りたいっていう気持ちもありますね。

大熊 (更新する)時間とかは、決めているんですか?

青山 決めていないですね。とにかく思いついたら更新しています。そんななかで、どの時間帯に更新したほうが読者のリアクションがいいとか、こういう写真が評価が高くなるんだとか、作品のマーケティングを自分の身体に染み込ませている感じですね。

大熊 例えば、今試しにInstagramを開いてみてるんですけど……、トップに出ましたね。多分さっき見てたんだと思います。そのぐらいには、惹きつけられて見ているんですよね。夢中になってるんだと思うんですけど。なんだろうな……たまに、ギョッとするときがありますよね。電車の中とかでInstagramを開いたら下着のシーンとかだったりすると。

青山 “少女礼讃”は、ひとりの少女の振り幅を表現したいので、電車の中で見るとホントすいませんって感じですが(笑)。ギョッとする感覚は、撮り手としてはありがたいですね。これでも、インターネット上にはアップできない写真もあるので、表現としては抑えてはいるんです。

少女というものをなるべく全部撮りたい

青山 今まで私が女の子を撮ってきたのは、思春期の頃の童貞男子目線というか、学生時代に同級の子たちを斜め後ろからこっそり見ているような感じ(スクールガール・コンプレックス)なのですが、大人になるとそんな理想はあっさり打ち砕かれるんですけど、やっぱりピュアで純真無垢で天真爛漫なジブリのヒロインのような女の子たちがこの世にはいるはずだとか、少女に対して理想化してしまうところがあるんですね。それは、当時女の子の実態を全く知らなかったからなんですけど。

もちろん実際はそんな女の子なんていないわけで、男の子が邪(よこしま)な様に女の子も邪で。当然だし、だからいいんですよね。

少女というものを全部撮りたいって考えた時に、単に理想化された姿を撮るだけでなく、女の子側から抑制された姿だけでもなく、ある種のエロティックな表現は避けられないと思うんです。少女を見る側の欲望だけでなく、少女自身が持つ欲望もあるわけで、そこから目を背けずに全部撮りたいということが、“少女礼讃”のテーマのひとつなんです。もちろん無理にっていうことではなく、あくまで自発的な表現としてですね。

あと、Instagramでは私の名前を出さずに作品だけを公開し続けているのですが、私が撮っていることを主張し過ぎてしまうと、“青山の作風の延長線上”としか見られなくなってしまうので、noteでは普通に私のアカウントで発表しているのですが、写真をはじめた頃の、純粋に写真の力で勝負している感覚を大切にしています。なので、写真の見せ方も先ほどのギョッとする感じとか、あまり今までに私が表現してこなかった極私的な雰囲気であったり、純真さと同時に妖艶さが交じり合う感じにしているんです。

大熊 青山さんのこれまでの作品と比べると、かなり被写体との距離感が近いですよね。多分それが結構ねちっこいというか、惹きつけられる原因なんだと思うんですけど。なんて言えばいいんだろうな……。

青山 なんでも大丈夫ですよ。

大熊 正直、大昔見ていたエロ本のことを思い出すんですよね。ポルノグラフィーみたいな写真……要するに展開があって、その中で徐々に肌の露出が増えていって、最終的にご開帳みたいな流れって、写真家も写真を組む編集者も当然考えるので、なんかその当時のことを思い出しました。エロ本もカルチャーだし、名だたる写真家の方々が通ってきてる表現ですよね。エロティックなものを撮ろう撮ろうとしていた当時の写真家たちの感覚に、これまでの青山さんの表現とは違う形で似てきているっていうのは、ちょっと感じるんですね。

ポートレートは、被写体との距離感=関係性が写る

青山 そうですね。その感覚は、よく分かります。被写体との距離感の話に通じると思うのですが、ポートレート写真って、何が写るかというと、ひとつに距離感なんですね。言い換えると、関係性が写るんです。それは写真なので、演出することもできます。単純な話、女の子との距離感って、叶うのであればどこまでも近くなりたいと思うのが、自然な関係で。ポートレートはある意味、疑似恋愛的な感覚を想起させることがひとつの手法で、素直にダイレクトにその表現に向かっている作品なんだと思います。

気になる女の子が街中を歩いていて、遠くから眺めるだけで満足っていうこともあると思うんです。でも例えば、全部撮ってほしい、どこまでも近づいていいよっていう女の子がもし目の前にいたら、戸惑いながらも近づいていくと思うんですね。その感覚って、多くの男性にある恋愛の甘酸っぱさやヒリヒリする感覚であったり、成功体験を想起させるもので、そんな距離感の伸び縮みをおよそ時系列順に、ハイスピードで更新していくと、次の写真ではどうなるんだろう……?って思ってドキドキしてもらえるかなと思っています。

大熊 近い話だと思うんですけど、“少女礼讃”にはそれぞれシチュエーションがあって、急に切り替わっていくじゃないですか。例えば、雪の中で撮っている写真に切り替わると、そこでは絶対に脱がないじゃないですか。

青山 そうですね、確かに。

大熊 このシチュエーションだと脱がないからまだ安心して見れるんですけど、雪の写真から急に次は、ホテルの一室からスタートするじゃないですか。そうすると、もう期待感がその時点で起きますよね。女の子とホテルの一室にいたら、この後何が起きるのかっていうことがもう想像できる話なので。そういう意味での臨場感があるって言ったらいいんですかね。

それを雪の中の写真には求めていなくて、彼女写真みたいにデートっぽく見えるんだけど、だからこそシチュエーションが切り替わった時の最初の写真によって、どこまでいくのかを想像する楽しさがありますよね。

青山 “少女礼讃”をシチュエーションで分けると、「外ロケで爽やかなデートっぽい雰囲気」と「室内で何かが起こりそうな妖しい雰囲気」になっていて、女の子との距離感という軸においては同じラインにあるんだけど、振り幅をあえて大きくしているんですね。それはひとりの少女を表現するときに、どちらもあってこそなんだよって言いたいし、実際の関係の深まりも、こういう流れだと思うので。

外にいる時の破顔と、室内にいる時の色気ある顔のギャップですね。どちらも尊重すべき少女の姿だと思います。

大熊 顔つきが、全然違いますよね。

青山 どこまで関係が深まるんだ?という戸惑いや期待感を持たせつつ、急に外の写真になってあどけなくなって、読者の気持ちが揺らいでくれるといいなって思います。そしてどっちも少女のリアルだって感じてもらえれば。

大熊 ギリギリまで出しておいて、急に切り替わるんで、ホッとはしますよね(笑)。

素性の分からない少女の虜にさせたい

青山 その繰り返しが、エンドレスで続いていく感じですね。距離感がゼロになりそうで、またフッと離れるような。その掴みどころのなさも、少女っぽいかなと思います。

私の作品の全体的なテーマとして、“記号と個性”というものがあって、普通は少女たちに個性的な魅力を感じて、例えば特定のアイドルのファンになったり、虜になったりするわけですけど、素性の分からない子、すなわち“記号的な少女”の虜にさせたいという思いがあります。記号的って、器みたいなもので、少女という器に、見るものが思い思いの少女性を想像で入れ込んでいく、そんな感じに見せていますね。なので、本当に全くの謎のまま、ただただ作品が大量に更新されていくという。この少女はモデル活動もSNSも全くしていないので、“少女礼讃”の世界の中でしか会えないんです。

大熊 おそらく年齢も聞かないほうがいいですよね。そのほうが、よりヤバいものを見ているような感覚になりますもんね。

青山 例えば、20歳前後かなと思って見るのと、15、6歳ぐらい?と思って見るのでは、全然感じ方が違うと思うので。もともと童顔な子なので、表情によっても想起させる年齢にとても幅があるんですよね。少女って、大人に見せたくて背伸びしたりとか、一方でいつまでも少女でありたいと成長に対して抗ったり、身体的にも精神的にも不安定な存在だと思うんです。

大熊 この少女はなんていうか……女優になるとか、モデルになるとかはちょっと違う気がするんですけど。でも抜群ですよね、このテーマのモデルとしては……。

青山 そうですね。このテーマありきで、少女を探していたわけではなくて、この少女に出会った時に、すごく気になって撮ってみたいなと思って、撮っていくうちに少女をテーマに撮り続けようと決めました。目の前にいるひとりの少女を、どこまで撮り深めることができるか。この少女は、撮られる経験が全くなかった子なんですけど、はじめて撮った時に、どうしても撮られたいという強い思いを感じました。なので、私の作品というより、競作みたいな感じですね。テーマもしっかり共有したうえで、撮影を重ねていましたので。

『少女礼讃』とは何だったのか? 1人目の答え

『少女礼讃』は、これまでの青山さんの作品の中で最も被写体と近い距離感で撮られている。ヌードになるのは必然だし、実際たくさんのヌード写真が掲載されている。しかし『少女礼讃』について語られるとき、なぜかヌードには触れられない。それはきっと、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ」る要素が多分にあるからだ。「少女」との物語を演出できる、写真集というメディアだからこそ掻き立てられるタブー感でもあるだろう。『少女礼讃』はそこに強烈なインパクトと、人を惹きつける魅力がある。ウェブメディアを主戦場にしていると、どんどん「徒に性欲を興奮又は刺激」するコンテンツが成立しなくなっている。インターネットが漂白され、男性向けグラビア誌が淘汰された今、奇跡のようなバランスで成立した作品ではないだろうか。

(cakes編集長・大熊信)

<次回、2人目は8月10日(月)更新予定>

本日より、未発表の写真のみを収録した「少女礼讃 〜cakesオリジナル版〜」を、8月24日まで毎日更新していきます。ここでしか読めない「少女」のストーリーを、合わせてお楽しみください。

少女礼讃

青山 裕企
青幻舎
2020-06-26

この連載について

少女礼讃』とは何だったのか?

青山裕企

6月に青幻舎から出版された、写真家・青山裕企さんの最新作『少女礼讃』。素性のわからない一人の「少女」を、2年間休むことなく撮影し続けた本作は、その時間の厚みを表すかのような512ページの大作として完成しました。本連載は昨年、書籍の発売...もっと読む

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t_taiyo なおcakes大熊さんによるこの企画もおもしろいです。 「あれなんなんですか!?」って聞きたくなる、誰かに解説してほしくなる、謎めいた魅力がある本だと思いました。 『少女礼讃』とは何だったのか? https://t.co/1BQI41QByU 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

die_kuma 青山裕企さんの少女礼讃というナニかについて話しました。でもやっぱり言語化しづらい作品なので、買って見てほしいです。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

yukiao 【夏到来!少女礼讃!】 cakesの記事の効果! 対談(四週連続!) https://t.co/1qVmDpN5hu 写真連載(22日連続!) https://t.co/iTw0VmBGPE 写真集『少女礼讃』 発売から1ヶ月… https://t.co/9VYa4Fta0m 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

yukiao 【cakesにて四週連続!対談公開!】 初期の頃から 約2ヶ月前 replyretweetfavorite