第13話 聖霊とテクノロジー

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究者として、教育者として、世界文学の最先端と日々向き合っている都甲幸治さんが「21世紀の世界文学」をさまざまなトピックから紹介してゆきます。アフリカと日本の近さとは?

アフリカと日本の近さ

 初めてアフリカを意識したのはロサンゼルスだった。留学中、大学院の同じクラスにクリスという名前のナイジェリア人がいて、けっこう話すようになったのだ。彼はもうそのときは30歳を過ぎていて、大学を出たばかりのクラスメートからは明らかに浮いていた。それで同じく30過ぎの僕に興味を持ったのか。

 クリスの話は、平和に育った僕にとって想像を絶していた。ナイジェリアで作家になり何冊か本を出したが、反政府的な演劇をやって捕まり、何年か刑務所に入れられていたこと。ようやく逃げ出したロンドンでは、なかなか芽が出ず、結局アメリカに来たこと。

 反政府活動をやって逮捕されるなんて、国家公務員の息子である僕には驚きだった。そういうのってどんな感じなんだろう。クリスは普段もわりとむちゃくちゃだった。たまたま高速道路を間違って降りたメキシコ人街が気に入り、そのまま住み着いていた。近所の人たちが親切でいい、と言うのが理由だ。

そして自慢の、たぶん20年は昔のBMWを家の近くにいつも路上駐車していた。「俺は周囲の車がどこにいるかちゃんとわかるんだ」なんて言って、一般道でもやたらと飛ばす。地面が下り始める瞬間にちょっとだけ車体が宙を飛ぶくらいだ。助手席に乗せてもらった僕は、「もっとスピード落として!」と叫び続けた。

とはいえわりと古風なところもあって、アメリカ人の挨拶の仕方はおかしい、とクリスは言う。目上の人に会っても頭を下げず、手をグッと出して握手、なんて失礼じゃないか。日本人みたいなこと言うな、と思って、もっとナイジェリアの文化について聞いてみた。

会議は目上の人が上座について、年齢順に出口に向かって並んで座る。基本的には目上の人を立てる。「そんなの当たり前だろう」。聞けば聞くほど、アフリカではなく日本の話のように思えてくる。

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世界文学の21世紀

都甲幸治

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究...もっと読む

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