大阪で最初に親しみを感じた町
私が住んでいる場所から天満までは遠くない。自転車で6分、歩いて20分という感じだろうか。JR天満駅を降りるとすぐそこに天神橋筋商店街という、どこまでも終わらないかのような長いアーケード街がある。私の家から近い端っこの天神橋筋六丁目から一丁目まで、全長はおよそ2.6kmもあるという。
JR天満駅のある五丁目あたりはいつも活気があって、5回行ったら1回はテレビ番組が“町ロケ”をしているのを見かける。テレビカメラを背にした西川きよしとすれ違い、「大阪にいるんだな俺は」としみじみ思ったこともある。このあたりは美味しいものを食べに来た若者と、仕事帰りに飲んでいく会社員と、野菜を買いにきた生活者とがごっちゃに混ざり合っていて、ロケをするのにもうってつけなのだろう。
エリアごとに少しずつ雰囲気も違って、四丁目あたりまで行くとちょっと道幅が広くなって古本屋がちらほらあって、三丁目、二丁目まで行くと生活感が色濃くなり、銭湯があったり、美味しくて有名なコロッケの中村屋の前に人が並んでいたりする。大阪に引っ越してくることが決まった直後、まだ東京に住んでいた頃に私はこの辺りを歩き、それまで大阪と言ったら真っ先に道頓堀のド派手でアッパーな風景が思い浮かぶような自分だったから、もっと隙間があって普通に暮らしている人が歩いているようなこの町の雰囲気にホッとするところがあって、「この近くに暮らしたら楽しいんじゃないか」と思った。
だから天満は私にとって最初に親しみを感じた大阪の町で、とはいえ人通りの多い繁華街ではあるから、中には「あんな騒がしいとこよういかんわ」と言う人もいるかもしれないが、私の住まいからはちょうどいい距離感で、ちょっと歩けばいつでも天満あたりに行ける、と思えることは私の心をちょっと晴れやかなものにしてくれた。
「決まった店」との出会い
実際、大阪に住むようになった自分が「大阪のどの町で一番酒を飲んできたか」と考えたら絶対に天満だと思う。JR天満駅前から天満青物市場を前身とするマーケット「ぷらら天満」あたりにかけては賑やかな店が立ち並び、少し離れると路地裏にひそやかな名店が見つかり、酒めぐりに終わりが見えない。天満に酒を飲みに頻繁に来るようになった当初こそ「よし!片っ端から飲んでいい店を探すぞ!」と意気込んでいたものの、すぐに戦意喪失した。気になる店が多すぎて手に負えないのである。いつしか私は決まった店にばかり行くようになっていた。
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