大東市「リカーショップおおひがし」東大阪市「食笑」―まだまだ知らない大阪があると思わせてくれる酒

東京で生まれ育ち、数年前に大阪に転居したライターのスズキナオさんが、大阪をはじめとする味わい深く個性豊かな酒場の数々や酒にまつわるエピソードなどを通じて関西の土地や文化と出会う。『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』も話題の”ウェブライターの真打ち”が満を持して「酒と関西」に向き合います! 第2回はネットの細かな網目からもこぼれた酒場が登場。

一度も降りたことのない駅へ

ある日の夕方、住道駅で待ち合わせることになった。住道と書いて「すみのどう」と読む。その地名は耳にしたことがあるものの、一度も降りたことのない駅である。JR京橋駅から京都府の木津まで伸びている学研都市線の沿線にその住道駅はあるのだが、学研都市線には「鴫野(しぎの)」、「放出(はなてん)」、「四条畷(しじょうなわて)」と難読駅名がずらりと並ぶ。

「いま鴫野駅を通過して、次は放出駅か」と頭の中でそれぞれの読みを思い浮かべながら、自分が大阪の町に住んであっちこっちと出かけていることがなんだか嬉しくなってくる。引っ越してきた当初、大阪にほとんど知り合いのいなかった自分にとっては、こうして待ち合わせをして一緒に飲む友達がいるということがすでにありがたいことだ。

住道駅の駅前にママチャリに乗ったスギムさんの姿があった。スギムさんは「クリトリック・リス」というなんともギリギリな名前で音楽活動をしている人で、日比谷の野外音楽堂でワンマンライブを行うほどの人気者である。股間の部分にテルミンを内蔵した特製のパンツを履いただけの姿で一人で舞台に立ってマイクを握り、ポエトリーリーディングにも近いスタイルで一曲一曲に込められた物語を汗だくになって語る。その姿は奇抜というか、滑稽というか、何がなんだかわからない感じでありながら、でも純度の高い衝動がダイレクトに伝わってくるようなところがあり、何が起こるかわからないスリルもあって、一度そのステージが始まろうものなら最後まで目が離せない。

観客から差し出される酒をめちゃくちゃなスピードで飲んでステージ上の高いところに登ったりするスギムさんが一体普段どんな飲み方をするのか、私は知らない。こんな風に待ち合わせて飲みに行くのはまったく初めてのことなのでドキドキしていた。

と言っても、スギムさんと会うのが初対面ということはない。私が所属するバンド「チミドロ」と「クリトリック・リス」が共演する機会があり、そういう時は「おお久しぶり!飲もうやー!」と言って乾杯してくれたり、ある時は、スギムさんが出演するネット配信番組にゲストとして呼んでもらったこともあった。その番組のテーマは「DTM講座」で、当時、パソコンを使って音楽を作り始めたばかりだったスギムさんに対して、ゲスト陣がアドバイスをするというものだった。私の他のゲストが、水曜日のカンパネラのプロデュースをつとめるケンモチヒデフミさん、そして岡崎体育さんで、そこに私。お二人がすでに広く知られたミュージシャンだったのに対し、私だけが「誰?」という感じで、しかもDTMで音楽を作ったこともない。どうしていいかわからず、恐縮し過ぎてスタジオに用意されていた缶ビールを飲みまくって具合が悪くなった記憶がある。

静かな住宅地に現れる「リカーショップおおひがし」

このようにちょっとした接点がポツポツとありながら、腰を据えて話したことがあるかというと全然無い、そんな相手が私にとってのスギムさんなのであった。スギムさんのママチャリについて住道を歩く。「駅の反対側の方はチェーンとかあって賑やかなんやけど、こっち側はなんもないねん。やねんけど、路地にいきなり面白そうな店があったりするんよね」とスギムさんが言う通り、住道駅の南側は静かな住宅街が延々と広がっている感じだ。

スギムさんの地元はこの辺りらしく、全国各地を過密なスケジュールでライブしてまわっている今でも、拠点はあくまでここなのだそうだ。「ここ!ここが前から気になってるんよね」とスギムさんがママチャリを停めたのは「リカーショップおおひがし」という酒屋さんの前だ。酒屋の店内でお酒を飲ませる角打ちスタイルの店らしく、店内から活気が漏れてくる。

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関西酒場のろのろ日記

スズキナオ

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コメント

touzokudan24 食笑のいか焼きが食べたい‼️ 焼きそばも初体験したいな‼️ 12日前 replyretweetfavorite

chimidoro 「関西酒場のろのろ日記」の第2回はスギムさんとラミーさんと一緒にいった住道の居酒屋「食笑」の思い出です。 https://t.co/6Tp6hzNHqf https://t.co/08xEIjDAbb 12日前 replyretweetfavorite