下北沢の赤いチャーハン、生みの親の意外な系譜【珉亭】ラーチャンセット

地元民から愛される絶品メニューがある。キャベツがぱりっと新鮮。漬け物はできる限り自家製。安い。女ひとりもOK。5条件を満たす定食屋を『東京の台所』の著者・大平一枝(おおだいらかずえ)が訪ね歩く。儲けはあるのか? 激安チェーン店が席巻するなか、なぜ地価の高い都会で頑張るのか? 絶滅危惧寸前の過酷な飲食業態、定食屋店主の踏ん張る心の内と支える客の物語。開発が進む下北沢で愛される町中華を紹介する。

毎年閉店の噂が出る店

 下北沢に住んで20年の私はつい最近ご近所から珉亭(みんてい)閉店の噂を聞き、創業者の娘で二代目店主の妻、鮎澤陽子さんに開口一番聞いてしまった。

「営業はいつまでになりますか?」

 鮎澤さんはあははと人懐っこい笑顔を見せた。

「毎年、年末になるとネットや口コミで、うちが閉店するって載るんですよ。“悲報”とか言って。全くその予定はないんですけどね。私達が知らないうちに誰かが閉店って決めてくださるの」


2階は座敷席。下北沢では貴重な40人対応

 店は下北沢の都市計画道路にあてはまるが、現区政になってからは、住民の反対もあり進んでいない。珉亭が閉まると吹聴すれば、衝撃と悲しみを煽りPV数も伸びる。噂の出どころはおおかたそんな輩(やから)の下心からだろう。

 それほど、珉亭は住民にとっても観光客にとっても大事な、下北沢を代表する中華店なのである。おお、危ない。騙されるところだった。


定食の人気NO1。生姜焼き定食。1045円(税込)。ご飯がすすむ甘辛味で肉が柔らかい

 定食は5種。生姜焼き定食、五目豆腐定食、肉うまに定食、ウインナ定食、マーボ茄子定食。鉢ものはふたりで分けたくなるくらいのボリュームだ。

 懐かしくて素朴な町中華の味。どれもちゃんとおいしい。おいしい町中華と聞いてあなたが想像するそれより、“ちょっと”おいしい。“ものすごく”ではない。その“ちょっとおいしい”が55年間変わらないこと、必ずお腹がいっぱいになること、また来たいと思えること。そういう店が変わらず街にあり続けることは、めまぐるしく変わりゆくこの町ではひどく大事なのである。

 “ものすごく”おいしいものもちゃんとある。チャーハンだ。これに半ラーメンと漬物の白菜であるラーパーツァイ(辣白菜)が付いた「ラーチャンセット」は、一番人気だ。


半ラーメン+半チャーハンの「ラーチャンセット」935円(税込)。普通サイズのラーメン+半チャーハン、普通サイズのチャーハン+半ラーメンのセットがほかにある

 ラーパーツァイとは、珉亭のオリジナルで塩漬け白菜にごま油・にんにく・粉唐辛子を加えた浅漬けである。これが、食べだしたら止まらないほど旨い。

 鶏ガラスープに醤油味の昔懐かしいラーメンに、名物赤いチャーシューがゴロゴロ入ったチャーハンの黄金コンビ。考案したのは鮎澤さんの母である。

「昔は半ラーメン半チャーハンというセットは、ほかであまりなかったそうです。母はお酒が好きで飲むとたくさん食べられないから、ちょっとずつ2種類食べたいと父に提案しました」(鮎澤さん)

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大平 一枝
平凡社
2015-03-20

この連載について

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そこに定食屋があるかぎり。

大平一枝

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コメント

RUBBERSACHI |大平一枝 @kazueoodaira |そこに定食屋があるかぎり。 珉亭行きたい〜 https://t.co/bmsuAx9jNA 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

gaku_drumcore 珉亭食べたいなー #スマートニュース 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

xxxmm https://t.co/dbUuvwvBfZ 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

chiruko_t ラーメンとチャーハンさっき食べたのに食べたい。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite