毎年閉店の噂が出る店
下北沢に住んで20年の私はつい最近ご近所から珉亭(みんてい)閉店の噂を聞き、創業者の娘で二代目店主の妻、鮎澤陽子さんに開口一番聞いてしまった。
「営業はいつまでになりますか?」
鮎澤さんはあははと人懐っこい笑顔を見せた。
「毎年、年末になるとネットや口コミで、うちが閉店するって載るんですよ。“悲報”とか言って。全くその予定はないんですけどね。私達が知らないうちに誰かが閉店って決めてくださるの」
2階は座敷席。下北沢では貴重な40人対応
店は下北沢の都市計画道路にあてはまるが、現区政になってからは、住民の反対もあり進んでいない。珉亭が閉まると吹聴すれば、衝撃と悲しみを煽りPV数も伸びる。噂の出どころはおおかたそんな輩(やから)の下心からだろう。
それほど、珉亭は住民にとっても観光客にとっても大事な、下北沢を代表する中華店なのである。おお、危ない。騙されるところだった。
定食の人気NO1。生姜焼き定食。1045円(税込)。ご飯がすすむ甘辛味で肉が柔らかい
定食は5種。生姜焼き定食、五目豆腐定食、肉うまに定食、ウインナ定食、マーボ茄子定食。鉢ものはふたりで分けたくなるくらいのボリュームだ。
懐かしくて素朴な町中華の味。どれもちゃんとおいしい。おいしい町中華と聞いてあなたが想像するそれより、“ちょっと”おいしい。“ものすごく”ではない。その“ちょっとおいしい”が55年間変わらないこと、必ずお腹がいっぱいになること、また来たいと思えること。そういう店が変わらず街にあり続けることは、めまぐるしく変わりゆくこの町ではひどく大事なのである。
“ものすごく”おいしいものもちゃんとある。チャーハンだ。これに半ラーメンと漬物の白菜であるラーパーツァイ(辣白菜)が付いた「ラーチャンセット」は、一番人気だ。
半ラーメン+半チャーハンの「ラーチャンセット」935円(税込)。普通サイズのラーメン+半チャーハン、普通サイズのチャーハン+半ラーメンのセットがほかにある
ラーパーツァイとは、珉亭のオリジナルで塩漬け白菜にごま油・にんにく・粉唐辛子を加えた浅漬けである。これが、食べだしたら止まらないほど旨い。
鶏ガラスープに醤油味の昔懐かしいラーメンに、名物赤いチャーシューがゴロゴロ入ったチャーハンの黄金コンビ。考案したのは鮎澤さんの母である。
「昔は半ラーメン半チャーハンというセットは、ほかであまりなかったそうです。母はお酒が好きで飲むとたくさん食べられないから、ちょっとずつ2種類食べたいと父に提案しました」(鮎澤さん)
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