この話、冒頭の数十行ほどは退屈に感じる人が多いと思うのだけど、すべての誰かの親と誰かの子どもにとって(つまり全人類にとって)非常に大切な話題だと思うので、とりあえず、読み進めてほしい。
つい先日のこと、我が家では「ブルーサンバー事件」という大事件が起こった。事件の詳細はこうだ。
息子のお気に入りの電車「ブルーサンダー」
とにかく電車にハマっている息子は、毎日のかなりの時間を、電車の雑誌や図鑑や絵本を見て過ごしている。
そして、とくに好きな電車のページを開いては「これ何?」とパパやママに訊ねて、電車の名前を確認し、時には自分自身でも呟いてみたりして、嬉しそうに過ごしている。
そんな息子が、少し前から毎日必ず名前を聞いてくる列車があった。それが「ブルーサンダー」だ。
とある雑誌のブルーサンダーのページを開いては、1日に何度も「これ何?」と聞いてきて、「ブルーサンダー」と言ってあげると嬉しそうにする日々が続いていた。
しかしながら、すごく気に入っている様子であるわりに決して復唱することはなく、息子自身は一度も発音したことがなかったため「きっと、まだこの子にとってはレベルが高い言葉なんだろうなぁ。でも、お気に入りだから聞きたいんだなぁ。サンダーバードのこともよく訊いてくるから、きっとサンダー系が好きなんだろうな。好きだけど言えないから、せめてパパとママに言わせたいんだなぁ」なんて思いながら「あー可愛い」とホッコリしていた。
事件が起こったのは、息子が初めて、それを声に出した日のことだった。
その日も息子は、いつものごとく私にそのページを見せながら「これ何?」と訊ねてきたので、私が「ブルーサンダー!」と答えると、少しの間があった後、勇気を出したように息子はこう言った。
「……ブルーサンバー?」
それはもう満を持して、という出来事だったため、私としては感慨深いものがあって、感動すらした。
テンションが上がっておかしくなってしまった夫
「わ!!!そうだよ!!!ブルーサンダー!」
「ブルーサンバァアアア♥」
「うんうん、ブルーサンダーだねええ!」
「ブルーサンバ——!!!!!!♪」
そして私たちはそんな風に何度も繰り返し、大いに盛り上がった。「うわあああ!ついに、息子がブルーサンダーって言ったあああ!♡」と、クララが立ったばりの(そのアニメを見たことがないからイメージでしかないけど)大きな衝撃と感動がそこにはあった。
だから嬉しくて、私はすぐさま夫を呼んだ。
そして「あのね!ブルーサンダーって言えるようになったんだよ!超可愛いの!聞いた方がいいよ!!!話を振ってみなよ!きっと言ってくれるよ!」と促すと、彼にとってもそれは満を持した出来事だったようで「え、マジ?!」と言うと、ブルーサンダーのページを自ら開き、息子に「この電車は何?」と聞き始めた。
すると息子は、さっき私に言ってくれたのと同じようにこう言った。
「ブルーサンバー!!!」と。超得意げで、自信満々な顔だった。
そして事件が起きた。
夫は、それがよっぽど可愛かったらしく、テンションが上がっておかしくなってしまい、そのままの勢いで「ブルーサンバー!!!」と息子の発音をマネして言ってしまったのだ。しかも、なぜか強烈な変顔をしながら。
すると、息子の顔からは笑顔が消え、真顔になった。それから、みるみる悔しそうな顔になって、しばらく口をへの字にして固まった後、大号泣した。
そしてそれ以来、二度と、ブルーサンダー(ブルーサンバー)と言わなくなってしまったのだ。
すべての親子に伝えたくなったこと
ということで本題は、ここからです。
いや、あのね、夫の気持ちは私にもわかる。茶化すつもりなんて一切なくて、もちろん悪意などあるわけもなく、「なんて可愛い発音なんだ!!!!幼児期の我が子って最高!!!」という意味で、思わず出ちゃった一言だったのだと思う。「ブルー!サンバアアアア!」って、本当に、思わず復唱しちゃった、っていうのは分かる。
だけど、きっと息子としては、イジられた気持ちになってしまったよね。(彼が盛大に変顔をキメてしまったせいもある。だけど、頭がおかしくなるほどに可愛かったので、ここで理屈で責めても仕方がない。)
このあと私は夫に「マジで金輪際、本当に気をつけて!!」と、可愛さが爆発したのは分かるけど、あの言い方をされたら子どもはバカにされたと感じちゃうし、発音に自信をなくしちゃうし、こういうことの繰り返しで吃音症になる人もいると思うよ、と話して、厳重注意をしたのだけど、その時にしみじみと感じたのが「っていうか、こういうことってよくあるんだろうな…!!」ってことで。
今回の記事で、すべての親子に伝えたくなったのは、これです。
親としてはそんなつもりはなくて、可愛くて可愛くてつい言っちゃったこと、やっちゃったことが、子どもの心に深い傷をつけてしまうことってありがちなんだろうなぁ、って思ったんだ。
少なくとも、私の心の中にはある。親からイジられて、すごくイヤだったことが。
私にとってのそれは、両親から時折言われる「美咲はムチムチ」という言葉だった。
誤解がないようにしっかり説明をすると、私は生まれてこの方、太っていた時期はない。というか一般的に言えば、常に痩せている。ガリガリまではいかないけれどスリムというタイプで、小学生の頃から常にクラスの中では痩せている方だったし、中学生でモデルになった時も、やっぱり痩せている方だった。
なのだけど、姉と弟が、異常にガリガリな子どもだったため(幼い頃の2人は体質や体型などがとてもよく似ていた)、その2人に挟まれていることによって、両親の目には私のことがムチムチな子どもに見えていたのだと思う。
幼稚園や学校に行けば「細っ!」と言われるのに、家にいると「美咲はムチムチ。ムッチーニちゃん♡」などと言われた。
私はただ絶望するばかりだった
それ自体も不本意だったのだけど、もっと嫌だったのは、両親が私をムチムチ扱いしていたせいで、当時かなりの意地悪だった姉から何かと「デブのくせに」などと言われるようになってしまったことだった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。