「お前だって論法」という守りの屁理屈
他人を攻撃しマウンティングすることを目的とした「 論点のすり替え」には、人格攻撃を含めた「揚げ足取り」の他にも、いくつかのパターンがあります。そこでご紹介したいのが、揚げ足取り同様に仕事やプライベート、そしてSNSでのやり取りで頻繁に使われる「お前だって論法」です。
たとえば、キャッチャー出身のある野球評論家が解説でキャッチャーのリードを批判したときに、「自分だって現役時代にリードミスくらいあっただろうに」と批判する。これが「お前だって論法」です。インターネット上では「お前が言うな」や「ブーメラン乙」などと言われるもので、批判したい相手の主張を「信頼するに値しない」と結論づけたいときなどに、この論法が使われます。
相手本人ではなく第三者を引き合いに出す形、たとえば子どもが怒られて「○○ちゃんもやってる」と言ったり、仕事のミスを上司にたしなめられて「これくらいで自分を怒るんなら、××さんも怒ってくださいよ」と文句を言うのも、同様に「お前だって論法」です。
議論の相手の過去や第三者を引き合いに出すことで、「自分だけじゃない」とか「自分がやったことはたいしたことじゃない」と認めさせたいし、自分でもそう思いたい。
そうした「自分が可愛い」という誰もが持つ意識が、「お前だって論法」という形で表出してしまう。これはもはや、すべての人間が無意識に使ってしまう屁理屈と言えるでしょう。
しかし、考えてみてください。他人を引き合いに出して「みんなやってる」とか「あの人よりマシ」と主張したとして、自分、あるいは擁護したい誰かが間違ったことをした事実は消えるわけではありません。誰と比較しようが、それこそ「目くそ鼻くそ」「五十歩百歩」であり、批判されることを拒否することはできません。
「あなただってあのときは……」と自分のことを棚に上げるなと相手を責めたところで、やはり過ちが消えるわけではないのです。
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