地面からニョキニョキ生えてる鹿児島仁王どんの謎

ヘンな形の目利きにして脱力系エッセイの名手が、丸4年かけて日本各地の路傍から超弩級のゆるカワ神仏323体をスカウトした『ニッポン脱力神さま図鑑』。コロナのせいで出版延期となるも、5月27日にようやく発売! それを祝って、 ゆかいな神さまたちが毎日交代でお出ましくださっていますが、日曜日はお休み。代わりに、地面からニョキニョキ生えてる(⁈)鹿児島仁王どんの謎に迫ります。

異形の太マッチョ

 編集の川﨑さんから「鹿児島に面白い仁王がたくさんあるみたいですよ」と教えられたとき、そんな話は聞いたことないと思い、検索してみると、なるほど変な仁王がある。上半身だけが地面から生えていた。なんだこれは?

 ついこないだまで国東半島の仁王が面白いと言っていたら、鹿児島にもあったのだ。しかも想定外の上半身だけ仁王。さらに仁王像の数でいえば国東半島よりも鹿児島のほうが多いと後で知った。面白そうではないか。

 そんなわけで鹿児島の石造仁王も見て回ることにした。

 国東半島と違ってこちらは県全域とさらに宮崎県の一部にまで分布しているらしく、レンタカーでの大掛かりな旅になったが、結論からいうと、鹿児島の仁王も豊漁であった。国東とは違う個性があって見応え十分だったのである。

態度がエラそうな分
ユルさが目立つ

 鹿児島仁王の特徴としては、

・筋肉質

・顔がでかくて丸い

 の2点が挙げられる(「一見ソフビ人形風の鹿児島仁王が経てきた痛ましい歴史とは?」で触れた、上半身と下半身が別である点、破損している点は今は除く)。

 薩摩というと、薩摩隼人のむくつけき男のイメージがあるが、仁王もまさにそういうマッチョさが強調された印象である。前の記事でも少し触れたが力瘤の表現のある像が多くあった。わかりやすいものでいえば「ダンシング仁王隊」。二の腕の力瘤を見せつけており、そこに明らかな盛り上がった肉が表現されている。

「レモン目仁王」もいからせた肩の下に二の腕のふくらみが見える。肩をいからせた仁王が多いのも鹿児島の特徴だ。男らしさが重視されていた社会だったのだろうと想像がつく。国東の控えめなポーズとは明らかに違い、邪気をはらい悪霊を退ける仁王の本来の役割を国東よりは果たしているように見える。

 さらに顔の大きさ、丸さも強調されているように感じた。国東仁王も顔はでかかったが、鹿児島はさらに肉厚である。

 とはいえ依然ユルさは残っていて、ふりあげた腕が招き猫のように顔の横で止まっているところなどは、国東半島とどっこいどっこいである。むしろ態度がエラそうな分、チグハグさも増しているように思えた。

 また、それとは別に川﨑さんは、鹿児島仁王の特徴として、目がレモンのような形をしているものが多いという点を挙げていた。たしかに伊邪那岐神社の仁王(上の「レモン目仁王」)の目など完全なレモンである。鹿児島県出身の彼女によれば、実際鹿児島にはこんな雰囲気の目をした人が結構いるそうだ。本当だろうか。

 同じ仁王像を作っても、その土地の人々や社会に応じて、その姿は変わってくるわけだ。とはいえ、それがユーモラスな造形になってしまうところは共通である。

破損された姿から漂う
グロテスクなおかしみ

 そして、鹿児島の石造仁王は廃仏毀釈によって破壊された。今も多くの仁王に破損があり、ほぼ作りなおしはされていない。上半身や下半身だけしか残っていない像もたくさんあって状況としては痛ましいままだ。

 だがその一方で、私は上半身だけが地面に置かれた仁王の姿に惹かれてもいた。「上だけ仁王」を見たときは素晴らしいとさえ思った。まるで地面からにょきにょき生えてきたようなおかしみを感じたのだ。

 上半身と下半身がもとは別の個体だったのではないかと思われる上下チグハグな仁王(「ダンシング仁王隊」の右から3番目など)にも、ブカブカのパンツを穿かされたおかしみがある。

常識からズレていることが
「かわいい」の条件

 たまたま読んだ四方田犬彦著『「かわいい」論』に次のようなことが書かれてあった。

 「『かわいい』と見なされている虚構の生物の多くは、このように人間の身体からの逸脱として考案され、本来的に畸形的な形状を所有している。畸形といっても規範的身体から何かが欠損している場合にかぎられ〜(中略)〜すなわちグロテスクであること、畸形であることこそが『かわいい』の隣人なのだ」

 そして、こう結論づける。日本には未成熟や不完全なものを肯定する独自の文化があると。

 なんだかとても腑に落ちたのである。

 畸形的な(かわいい)形状を肯定する日本文化。

 最初は、この破損した上半身仁王のことだと思って読んだ。まさに身体の半分が欠損しているわけで、グロテスクなものと見ることができる。だから上半身だけの仁王を私もかわいいと思ったわけなのか。

 そう考えると、ニコニコ顔のお地蔵さんにピンとこない理由も説明がつく。そこにはグロテスクが含まれていない。これまでに見たことがない畸形的な何か、かわいくなる要素としての予定調和から外れたものが含まれていないのに、本人(ニコニコ顔のお地蔵さん)は、かわいいつもりでいる(ように見える)から、勘違いするなと、つい蹴飛ばしたくなるのであった。蹴飛ばさないけど。

 しかし、これはもっと広い話なのかもしれない。欠損のない仁王にも、さらにいえば田の神さあにも鬼コにもそれは当てはまりそうな気がする。

 畸形的とは、つまり、変なもの、のことだ。常識からズレているもの。神さまだの鬼だの仁王だのが表現されるときは、もとから人間とまったく同じ形には表現されない。奇妙な姿だったり特別に記号的な何かをまとって表されるわけだから、どうしても人間ではない未知の姿になる。そしてそれが小さかったり弱そうだったり未成熟な感じに表現された場合に、われわれがかわいいと感じるというのは、とても納得できる話である。


鹿児島仁王どんとは?

鹿児島にも国東同様、たくさんの石造仁王がある。明治維新後の廃仏毀釈で徹底的に破壊され、痛々しい姿になった像が目立つのは残念だが、幸運なことにユーモラスな味わいは今も失われていない。


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宮田珠己

こんな姿の神仏もありなのか! ヘンな形の目利きにして脱力系エッセイの名手・宮田珠己が、構想・取材に丸4年をつぎ込み、日本各地の路傍から超弩級のゆるカワ神仏323体をスカウトした『ニッポン脱力神さま図鑑』。コロナのせいで延期となる...もっと読む

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consaba 宮田珠己「編集の川﨑さんから「鹿児島に面白い仁王がたくさんあるみたいですよ」と教えられたとき、そんな話は聞いたことないと思い、検索してみると、なるほど変な仁王がある。上半身だけが 1日前 replyretweetfavorite

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