フェミ愛すべきオスがいて  

世の女性たちがなんとなく共有する、「ニッポンのおじさん」へのファジーな嫌悪感の正体に迫る本連載。今回は、フェミニズムを理解するリベラル男と、その対称的な存在として元東京都知事でもある石原慎太郎氏について考えます。

世界がバカな男で溢れていたらシンプルだったのに

 お酒はぬるめじゃなくてもいいが、男は踏ん反り返ったバカがいい。踏ん反り返りついでに、「えー涼美バカだからわかんなぁい」という号令に「じゃあ俺が教えてあげようぞ」と言わんばかりのつまらないウンチクを振りかざし、上目遣いのだっちゅーのポーズに札束を放り出し、「いやよいやよもいいのうちだろ、お前だってスキモノだろ」と性器まで勝手に踏ん反り返し、東に病的な巨乳あれば行って鼻の下を伸ばし、西に疲れたぷっくりアヒル唇あれば行って強引に吸い付き、男だからこそ見せなきゃいけない根性とか、男同士の悪ノリとか、男気ジャンケンとか男・山根とか飲んで飲んで飲まれて飲んでとかやっていてくれたらいい。そうである限り、私のすることはひたすら彼らをワルモノにしてワルグチを重ね、谷間に挟まった札束を数え、それはとりあえずもらっておいて、再びワルグチを重ねるだけで、実にシンプルだ。

 私が初めて勃起を見たのは完成直後の渋谷QFRONTのTSHUTAYAで、「Creamっていう雑誌の取材なんだけど」「男のアレを見たときの女の子のリアクションを見なきゃいけなくて」「何も触らずただ見て何か一言言ったりしてくれれば謝礼払うから」「こっちからも何も触んないから」と寄ってきた男のそれだった。こちらはこちらで、そんな処女の女子高生でも嘘ってわかる嘘でお金払ってまでオナニー鑑賞させて悲しい生き物だと、あちらはあちらで適当な嘘信じてホイホイついてくる悲しきバカな女子高生だと、それぞれ勝手な自分文脈で相手を見下していた。しかしこちらは指一本触れさせずにトイレで5分でお金稼げる私サイコー!と、あちらはお金で女を思うようにトイレに連れ込める俺サイコー!と、地獄の底でお幸せな自己肯定をしながら、落とされた精子は流れる水洗トイレの中でぐるぐる回り、そうしてその日も地球が回った。

 寄ってくる男というのがすべてそのようであってくれたら、私はおじさんなんていう生き物と分かり合うことは一生無理だとやはりシンプルに納得し、そのような世界で自分勝手な文脈を勝手に生きる。

「椿三十郎」のようなリベラルおじさんVS名誉男性

 しかし当然、男がそう単純でバカでいてくれることもなく、むしろ最近では従来的な意味での男性性を自戒を込めて猛省し、むしろ先頭に立って女性への暴力に怒るという態度は頻繁に見られるようになった。そういう、賢くって優しくって女の味方のおじさんたちを、私は椿三十郎で言うところの田中邦衛のポジションで障子の隙間からジロジロ見ている。

 田中邦衛扮する保川という若侍は、急に現れて自分ら「正義感の強い汚職告発若侍」の味方をしてくれる椿三十郎こと三船敏郎をなかなか信用せず、信用しないがために自分勝手な行動をとって味方の侍や椿三十郎に迷惑をかけるわ、命を危険に晒すわ、せっかくの計画をおじゃんにするわの困り者で、結局椿三十郎の助けなしには何も役に立たず、最終的には椿三十郎に超感謝しまくって、多分最初信用していなかったことを気恥ずかしく思いながらすっかり尊敬する。要は突然現れたヒーローもののフィクションで、相手をなかなか歓迎できないが、結果その相手に救われまくる、ちょっと恥ずかしい捻くれ者という役どころである。

 しかしもし椿三十郎が「椿三十郎」ではなく、味方のフリして近づいてくるワルモノだった場合には、この田中邦衛ポジションはホイホイ信用する若侍たちを救う役どころにもなりうる。若侍たちが一瞬分裂するのもこの味方だか敵だかよくわからない魅力的なおじさんの登場のせいで、おじさんが全て汚職する家老みたいな毒まんじゅうみたいな奴ばかりなら、わかりやすく一致団結する。つまり、問題は男女の問題において男の加害者性を強く糾弾する新時代のリベラルおじさんたちが、椿三十郎なのかどうかということだ。

 これが男女逆だと、男女の問題で女を批判して男の論理を擁護するような、保守論壇の女性専用席に座るような女は、名誉男性とかおじさんに毒された思考とか言われて裏切り者のレッテルを貼られ、男以上に憎まれる存在となる。

 しかし自称保守の程度の低いおじさんに可愛がられるその席は、ポジションとしては需要があるので座らんとする女はどの時代にもいて、その嫌われと愛されは結構ちゃんと確立している。次元が低いが、多分今で言うとLGBTQを生産性がないと言ったり、レイプ事件の風刺漫画を描いたりした女たちはその席にしがみ付いていて、そして当然、男性のおっさん臭さを糾弾する立場のリベラルおじさんたちも、このウヨサーの姫たちを地獄のように忌み嫌う。

 もし男女が対称的な存在だとしたら、リベラルおじさんたちはフェミサーの王子なのであるが、彼らはそんな、自分らが地獄のように嫌いなウヨサーの姫たちと並べられたら烈火の如く怒るであろう。そこには、弱者の側に生まれながら強者の論理を代弁する彼女らと違って、強者の側に生まれながら弱者の論理を代弁する自分らは、椿三十郎であって宇都宮健児であってバットマンであってウヨサーの姫ではないという気分と自負が多分あるし、それはおそらく正しい。女が男思考をインストールした場合にある経済的なメリットは、底辺おミズ上がりの私は幸いよく知っているが、男が女の味方をした場合のメリットは少なくともそれほどにはない。

フェミニズムを理解する男たち

 こういった逡巡は何も私が障子の隙間からぶつぶつ言うまでもなく、進んだおじさんたちは高度に色々考えているようで、もともと「男らしくない」と言われて男性性に居心地の悪さを感じながら、一方で男子校育ちメンタリティも持つという清田隆之は新著で、女性の恋愛相談に乗る活動を通してこじれた男性性が解きほぐされて生きやすくなったものの「今度はジェンダーに理解のある優等生みたいな発言をして褒められてようとしている自分が出てきたり、他の男性に対して「まだ男らしさで消耗してるの?」と優越感を抱こうとしている自分が見つかったりして」と書いている。

 『男がつらいよ』の著者である田中俊之は、「やさしいきびしさ」の名の下で体罰やパワハラが正当化されてきたものの、今相手を傷つけないよう全力を尽くす「きびしいやさしさ」は表面的な取り繕いから悲劇を生む危険性もある、と「やさしい」世代の男子たちのジレンマを解説する。

 障害者支援と性風俗問題に詳しい坂爪慎吾の新刊では、フェミニストを名乗る女性らの中にも「リベラル男子」を「フェミニズムの言葉を簒奪して自己弁護をしている」と攻撃する者たちがいると指摘していて、それをフェミニズムを理解する男子たちはフェミニストの攻撃が最も通じる相手だからと説く。

 舟唄をBGMに、女性よりも女性問題に詳しい彼らの本を読んで、男に生まれただけで無自覚に傷つける側だった自分らへの反省と、真面目に人間であらんとする姿勢に敬意と舟唄を捧げながら、私がどこまでも田中邦衛なのは、そんな次元の高い話ではないのだと感じる。スズミは頭が悪いから、彼らの高度な逡巡のような形で違和感を持っているわけではない。別に優等生的発言で悦に入ろうと、やさしさのジレンマがあろうと、フェミ語で自己弁護をしようと、やさしい男はいいもんだ。

愛と正しさがすべてじゃない

 ただ二点ほど変な匂いはする。一つは、そもそも男って、男の愚かさを語るのが大好きで、「又ひとつ女の方が偉く思えてきた」と言って酒を飲むのは河島英五から続く伝統で、「男ってバカだからさ」と悪ぶったナルシシズム通称ワルシシズムを振り回すのを長年見ていると、リベラルおじさんたちの男性性への気づきなんていうのもまた英五的なアレの変形にも見える。

 さらに言うと、おじさんって過去を悔いて犠牲になったり愚かさを後悔したりするの好きじゃん。あと殉職好き。映画「ワンダーウーマン」でも、凡人の男はワンダーなウーマンの力を信じて、自分は進んで彼女を含む世界を守るための犠牲となる。あれは多分、男から見ると美しい話に見えるんだろうけど、ワンダーウーマン的には非常に目覚めが悪い。悦に入って殉職されても、残ったこちらの泥臭い日常は続く。 もう一つ、SNSなどでやさしい男たちが弱者・女を代弁するとき、往々にして彼らは正しすぎる。彼らが最も活躍するのは、男のわかりやすい暴力事件のときだと思う。

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ニッポンのおじさん

鈴木涼美

どこか物悲しく、憎めないおじさん。男にリスペクトされる好感度高い系おじさん。こじらせおじさん。新しい価値観で社会を斬るおじさん。そして日本社会を動かすおじさん。彼らはなぜ〈おじさん〉になってしまったのか。彼らの何が〈おじさん〉たる所以...もっと読む

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コメント

qz_yk https://t.co/qU7bCr0uts 4ヶ月前 replyretweetfavorite

kyushiro2 面白すぎるし、日本最古の文豪が女性だったのを思い出したよ。『源氏物語』の登場人物たちは作者の分身だし、鈴木涼美の文体の多様さも、ある意味分身術みたいなとこがあるな。@Suzumixxx https://t.co/L7t7Utac0B 4ヶ月前 replyretweetfavorite

renoso13 ちなみに鈴木涼美さんのコラムはこちらで、今なら無料で読めます! https://t.co/fcGPxrNsIS 4ヶ月前 replyretweetfavorite

GPart2 いつもの涼美はん節に今回もふんふんうなずきつつ読む。なんやかやで世の中の権力権… https://t.co/h3gaAdZNWc 4ヶ月前 replyretweetfavorite