岡本太郎の言葉に「私は人生の岐路に立った時、いつも困難なほうの道を選んできた」という名言があるそうですが、私が皆さんに贈りたいのは、「人生の岐路に立ったら、楽にできるほうの道を選べ」というアドバイスです。
この場合の「楽」とは、苦痛や負担を感じずにやれる、ということです。負担が少ないと感じることは、おそらく自分の適性に合っているのです。逆に習得にものすごく苦痛が伴うのであれば、それはあまり自分には向いていない。自己啓発思考の人は、「その苦しさを乗り越えることに意味がある」と言うでしょうが、私はそうは思いません。
勉強でも、何かの技能を磨くのでも、他の人よりそれが得意かどうかを考えるべきです。人より短時間ですっとできてしまうとか、どれだけ長い時間やっていても全然疲れを感じないとか、自分はどう考えても「これが得意だ」と言える能力を伸ばしていくほうがいい。「楽にできる」とは、自分の持ち味を活かすということだと思うのです。
日本の企業は、とにかく技術力を伸ばして高品質で良いモノを作ることを信条としてきましたが、それは日本企業の勝因であり、同時に敗因でもありました。
アップルのiPodを見たときに、日本の技術者のなかには「こんな程度のもので製品にしていいんだったら、うちはとっくに作れていたよ」と怒る人もいたとか。性能や容量を考えたら、ウォークマンのほうが数段いい。その通りかもしれませんが、苦労してクオリティの高いモノを目指すだけがいいわけではないのです。高品質、高性能だけが世の中に受け入れられる道とは限らない。実際、世の中はiPodのあの手軽さと遊び心、デザイン性に心を惹かれた。だから爆発的ヒットになったのです。
自己研鑽を求めて、この技能、あの技能といろいろ身につけて仕事力のハイスペック化を目指さなくてはいけないと思っている人は、それと同じ罠にはまっている。苦労してクオリティを上げなくてはいけない、そうすればいい評価があるはずだ、売れるいいモノになるはずだと考えている。でも、道はそれだけではないのです。
すごい機能を搭載するためにはコストがかかってきます。コスト&ベネフィットで冷静に見たら、自分に向いた技能を使い、自分に向いた業界で戦っていくと考えたほうが、むしろ賢い。自分が楽にできることを身につけ、軽やかにしなやかに生きていくほうが得策です。「楽にできるほうの道を選べ」とはそういう意味なのです。
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