私にはずっと好きな幼馴染がいる。
優しくて、喧嘩をしたら次の日には恥ずかしそうに家までお菓子を持って来る可愛い人だった。
中学生の頃、彼はベッドから動けなくなった。
私はよく遊びに通った。
遊びといっても、私が当時はまっていた折り鶴を作りながら学校などのくだらない話をするだけだった。
彼はいつも笑ってその話を聞いていた。
彼は自分といてもつまらないだろうから無理して来なくてもいいと言ったが、そんなことないと言って通い続けた。
そんなある日、彼が「キスしてもいい?」と聞いてきた。
触れるだけの軽いキスだった。
それから会う度にベッドの上で抱きしめ合ってキスをした。
我儘を言えば、恋人になりたかった。
彼とは見えない絆があるのだと思っていたし、ランドセルを背負っていた頃から好きだったのだ。
だがその想いは言い出せなかった。
彼の中で私は「幼馴染」という周りより少しばかり特別な存在であるだけで、彼の優しさも温もりも「幼馴染」である故だと思っていた。
何より彼の側に居られなくなるのが怖かった。
そんな関係のまま6年の月日が流れ、大学一年の春を迎えた頃、彼は突然この世を去った。
ドラマや映画で観るような感動的な別れではなかった。
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