小さい仕事も大きい仕事も、「めんどくさい」の連続だ

ここはカフェ「しくじり」。一見さんお断りの会員制だ。
ここでの通貨はしくじり。客がしくじり経験談を披露し、それに応じてマスターは飲み物や酒を振る舞う。 マスターは注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を持ち、過去に多くのしくじりを重ねてきた。しかしある工夫で乗り越えてきた不思議な経歴の持ち主。会員のために今日もカフェのカウンターに立つ。 そんな奇妙なカフェのお話。
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りんだ「はぁ〜〜〜」

(カラン、コロン)

小鳥遊 「いらっしゃいませ。おや、りんださん。すっかりしくじり常連の風格ですねフフフ」

りんだ 「なんなんですか! わたし、今週もまたしくじって真剣に悩んでるんですよ!?」

小鳥遊「これは失敬。あまりのしくじりオーラに、ついうっかり」

りんだ 「しかも、しくじりオーラって、よく考えると全然ポジティブじゃないし。まぁ、とにかく話を聞いて、何か出してくださいよマスター」

小鳥遊 「はい、りんださんのしくじり、じっくり聞かせていただきますね」

****

りんだ 「この前、ステーキをご馳走になったとき、小鳥遊さんが教えてくれたこと覚えてますか?」

小鳥遊 「あ、ステーキと同じように、仕事も手をつけやすように手順を小さく切り分けて、書き出すという話ですね」

りんだ 「そうです、そうです。ちょうど仕事で、会社パンフレットの改訂をまかされて。だからはりきって手順を小さく切り分けて、書いてみたんです」

小鳥遊 「素晴らしいじゃないですか」

りんだ 「でも書き出しているうちに、『こんなにたくさんやることあるの?』って思えちゃって。そうしているうちに『これでいっか』と手順への切り分けをやめちゃったんです」

小鳥遊 「よくあることです」

りんだ 「そうしたら、上司に確認してもらう手順を飛ばして、印刷会社にゴーサインを出してしまったんです。刷り上がってきたのをみたら、社長の挨拶の文章の締めが『……ですぅ。』って印刷されていて……」

小鳥遊 「ですぅ。ですか……」

りんだ 「はい、ですぅ。ってなってました……」

小鳥遊 「フフフ。いやぁ、なかなかのしくじりですね。見たいので、よろしければ今度それ持ってきてくださいフフフ」

りんだ 「……完全にネタとして楽しんでますよね?」

小鳥遊 「またまた失礼しました」

りんだ 「そのときは、全身という全身から血の気が引きましたよ」

小鳥遊 「そりゃそうですね」

りんだ 「はぁ…要領のいい同期のアズサに負けたくなくて、はりきってみたけど……。私ってやっぱりダメなのかな……」

小鳥遊 「そんなことありませんよ。ところで、餃子はお嫌いですか」

りんだ 「カフェなのに定食屋みたいなメニューですね。好きですけど。食べますけど」

小鳥遊 「ありがとうございます。あまり経験はないのですが、餃子が作りたくなったのでちょうどよかったです。お腹いっぱい召し上がってください」

****

小鳥遊は手元のメモに目を落としながら、餃子の餡(あん)の下ごしらえを始める。キャベツを電子レンジで加熱してから、粗みじん切りにする。玉ねぎを取り出し、これも粗みじん切りにして、キャベツと玉ねぎの水気をキッチンペーパーで吸い取る。

りんだ 「なんで電子レンジでいったん温めたり、キッチンペーパーで水気を取るんですか?」

小鳥遊 「キャベツは加熱すると甘みが出るそうなんです。水気は、餃子の皮に水分が染み込まないように、です」

ニラを小さく切ったあと、塩を入れたひき肉を手でよくこねて、砂糖や塩コショウ、醤油などの調味料を混ぜる。

小鳥遊 「塩を入れてよくこねて粘り気を出さないと、野菜と混ぜたときに水分が外に出ていってしまっておいしくならないんですよ」

りんだ 「ふ〜ん。餃子って案外作るの手間かかるんですね」

小鳥遊は、肉に先ほどの野菜とニンニク、すりおろした生姜を入れて軽く混ぜ、ラップをして冷蔵庫に入れた。

小鳥遊 「これで2時間休ませます。こうするとさらに具がジューシーになるんだそうですよ」

りんだ 「に、2時間! 待つんですか?」

小鳥遊 「待つんです。お帰りの時間は大丈夫ですか?」

りんだ 「まぁ、ギリギリ大丈夫ですけど。知りませんでした」

小鳥遊 「時間が大丈夫でよかったです。できたての美味しい餃子を、りんださんに召し上がっていただけますね。さぁ、待ちましょうか」

****

小鳥遊 「ところで、恥ずかしながら私メモを見ながら餃子を作っていたの、分かりました?」

りんだ 「ええ、ちょいちょい手元に視線を落としながら、作っていましたよね」

小鳥遊 「料理は体が勝手に覚えるものという人は多いですが、私は相当繰り返さないと覚えられないタイプなんです。だから、レシピのメモは手放せません」

りんだ 「分かります」

小鳥遊 「しかも、レシピというのは書き出してみるととても複雑で、多くの工程を重ねているのが分かります。ちょうど会社パンフレットを作っているときの、りんださんのような気持ちです。正直しんどいです」

りんだ 「でも、レシピなしじゃ作れないですよね」

小鳥遊 「はい。だから、面倒くさいですがレシピをメモしてます。そりゃときどきレシピが不完全なときもあるんですけど、そのたびに工夫を書き加えていくんです。そうしていると、メモがたまるにつれて、『ああ、自分はこれだけの料理をお客様に提供できるんだ』と自信が湧いてくるんですね」

りんだ 「自信……。小鳥遊さん、それって私の仕事にも同じようなことがいえますか?」

小鳥遊 「いえると思います。だから、りんださんが手順を小さく分けて書き出したといってくれたとき、実は心の中でガッツポーズをしておりました」

りんだ 「でも、ミスしちゃ意味ないですよねぇ……」

小鳥遊 「意味なくないですぅ」

りんだ 「ちょっと! 当てつけですか!」

小鳥遊 「フフフすみません、魔が差しました。ミスした事実は変えられません。でも『手順を書き出して』『必要に応じて手順を書き換えて今後に生かす』ことができればいいんです。それが、りんださんご自身の財産になります」

りんだ 「いい話! ありがとうございます。それで、あのぅ、そのぅ...」

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カフェ「しくじり」へようこそ

小鳥遊 /りんだ

発達障害でありながら一般企業に勤める小鳥遊(たかなし)さんが、カフェのマスターに扮して仕事の悩みに答えるストーリー連載。「安心して仕事ができるようになる、安心して会社に行けるようになる」を目指す、世界でいちばん意識低い系のビジネス連載です!

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コメント

Manbow_pastel 「ミスした事実は変えられません。でも『手順を書き出して』『必要に応じて手順を書き換えて今後に生かす』ことができればいいんです。」 安心できますね。 https://t.co/U0IWfdf7c1 3ヶ月前 replyretweetfavorite

sanctuarybook カフェ「しくじり」今日も営業中 ♪ https://t.co/22lFMFped8 今回のテーマは「。 都会の喧騒を離れ、一見さんお断りの限られた客のみ入店できる会員制の 3ヶ月前 replyretweetfavorite

mo_mo_no_uchi ほんと仕事って、「めんどくさい」との戦いだよな〜 3ヶ月前 replyretweetfavorite

juni_ca_wa_ii ?????別にめんどくさくないし、考えなくても手と頭が動くんだが。 3ヶ月前 replyretweetfavorite