第11話 フランスお洒落帝国

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。「21世紀の世界文学」をさまざまなトピックから紹介してゆきます。
今回はかつてもっともお洒落だったフランスとその現在について。

なんでもフランスが偉かった

とにかくフランスが一番だった。なにも1960年代以前の話ではない。90年代初頭でもやっぱりそうだったのだ。現代思想でかっこいいのはドゥルーズやデリダ、フーコーと言ったフランス人ばかりだったし、映画もファッションも、とにかくフランスが偉かった。

 僕も高校時代、浅田彰の『構造と力』を読んで全然わからなくて、そのわからなさに興奮した。「ルプレザンタシオン」とか「デコンストリュクシオン」とか、英語に似ているけど微妙に違うフランス語のカタカナ表記に痺れた。そして、大学に入ったら絶対にフランス語を勉強するんだ!と心に決めた。

 第二外国語でフランス語を取り、それだけでは足りずにお茶の水のアテネ・フランセに通い始めた。受け持ちになった先生は生徒が間違えると「それはフランス語じゃありません! ブルトン語です!」と、今だったら完全に差別になりそうな言葉が口癖だったけど、僕らはよく意味もわからずに笑っていた。

 アテネ・フランセにはいろんな人がいた。美容師、銀行員、代議士秘書など、みんな僕より年上で、お洒落で、フランスが大好きだった。「ぜったいに今の仕事を辞めてやる。それでパリに渡って、エールフランスのCAになるの」。そして数年経つ頃には、本当にフランスに行ってしまう人までいた。

ゴダールとカラックス

 映画だって絶対にフランス映画だった。そのころ僕が気に入っていたのは何と言ってもゴダールで、『ピエロ・ル・フー』や『勝手にしやがれ』を見てそのB級なかっこよさに感じ入り、『右側に気をつけろ』を見て、なんだか全然分からなくて、でもタイトルのフランス語を覚えて日比谷のシャンテ前で叫んだりした。

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世界文学の21世紀 (ele-king books)

都甲 幸治,大和田 俊之,椹木 野衣,寺尾 紗穂,五十嵐 太郎,ドミニク チェン
Pヴァイン
2020-08-26

この連載について

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世界文学の21世紀

都甲幸治

現在、文学の世界では何が起こっているのか。そして世界の中で文学はいまどのような位置にあるのか。国境、人種、ジェンダーなどさまざまな枠組みが大きく変わりつつある21世紀にあって、文学はどのように変わろうとしているのか。翻訳家として、研究...もっと読む

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