ステイホームは老後生活の予行演習?

夫婦が24時間一緒にいる、もしくは、おひとりさまは食事も自由時間もずっとひとり。こうした緊急事態宣言下でのステイホームは、老後生活の予行演習と言えるかもしれない、と経済評論家の佐藤治彦さんは言います。老後は仕事がないからもっと時間もあるし、友人にも自由に会えるじゃない?と思うかもしれませんが、幸せな老後のために今考えておいた方がいいこととはなんでしょうか。

新型コロナウイルスの大流行はまだ終わってはいない

新型コロナウィルスの世界的大流行は私たちの生活を一変させました。
特に4月から5月末までの緊急事態宣言の間は、ステイホームの標語の下で、多くの人が普段とは違う生活を余儀なくされました。
4月上旬と比べると、日本の状況は少し落ち着いたようにも思えます。しかし、第二波の流行は確実に日本社会を襲うと専門家は異口同音に言います。
今も世界的に分かっているだけでも毎週100万人単位で感染者が増え、死者も急増し、すでに50万人の尊い命を奪いました。

この連載は私たちの生活とお金のことを考えるものなのですが、ただ生きているだけでなく、出来るだけ幸せな生活を送りたいものだと思います。

お金はあるだけでなく、お金をうまく使って、それぞれがより幸せな生活をしたいものだと思うのです。 そして、会社に通わずにほとんどの時間を家にいる生活も、普段は忙しくてあまり一緒にいられない家族との共用する時間と空間。 そんなステイホームの期間は、私たちにとても重要な、誰もにやってくるそれぞれの未来の生活の予行演習だったようにも思えるのです。

今回は、そんなことを考えてみたいと思います。

中国で離婚が増えている理由

中国で、離婚をする人が増えているそうです。
新型コロナウィルスの流行で中国政府が強権を用い、強力なロックダウンが中国全土に発令されました。日本と違って自粛ではなく義務、強制です。罰則規定もある。
学校は長期に渡って休みとなり、買い物も自由に行けない。
日本も自粛要請とは言っても、ほとんどの企業や多くの社会システムがその方針で組み直されました。また、世間の同調圧力はあるし、自粛警察という嫌なこともありました。
それでも全体としてみれば、日本は個人の意思による自粛です。ヨーロッパのように、住まいが別にあるため家族の元を訪ねることを法的に禁止されたりすることはありませんでした。

中国は日本と違い、法的拘束力を持って国家により自宅隔離を強いられた。
今では国家が強い権力を持って対策をしたから、感染の抑えこみに早期に成功したのだという意見もありますが、そもそも発表されるデータや事実が本当なのかという疑問も残ります。
5月に入ると北京の食品取引市場を中心に新たな感染が起き再び、市民に自宅待機を求めたり行動の自由の制限をしているのはご存知の通りです。
また、韓国でも感染が再び増えてます。
これは決して海外から帰国した人が持ち込んだウィルスによるものではなく、密かに国内で潜伏していたウィルスが、人々の生活や行動様式が従前のものに戻ったことによって再び感染が広まったと考えるのが自然でしょう。

現代の私たちにはひとりの時間が必要。

話を離婚の話に戻します。
中国でなぜ離婚が増えているのかというと、強制的なロックダウンとは、家族が四六時中一緒にいるということです。 中国も特に都市部では住宅事情は良くありません。
狭いスペースに何人もの家族が暮らします。その結果、仕事や学校で、いつもはそれほど顔を合わせない家族も24時間共にいることになる。
すると、普段は見えないところも見えてくる。気にならないところも気になってくる。
今までは少しイライラしても、職場や学校という違う環境に行くことでクールダウンすることができた。そういったことが一切できなくなったことによって、喧嘩や諍いが増えて離婚という結論を出す人が多くなったというわけです。
自分の子どもでさえ、朝から晩まで大きな声でまとわりつかれたら、他のことに手がつかなくて嫌になってしまうという人も少なくありません。

コロナ前の生活は、夫婦は仕事の時間は別々となり、子どもは学校や幼稚園に行く。家族はそれぞれの生活をする時間があったのです。 狭い居住スペースに24時間一緒にいることはなかった。コロナの自粛生活のような時は、たった2ヶ月でも、我慢できない人が山ほどいたわけです。

そうです。 現代に生きる私たちは、ひとりになる時間が必要なのです。
そして、どんな大切な人との間でも、健全で良好な関係のために適切な距離感が不可欠ということです。
これは、日本でも中国ほどではないにしても、同じような経験をした方は多いでしょう。

おひとりさまも、本当にひとりの時間は実は少なかった

反対に、ひとり暮らしの人は、 新型コロナウィルスのステイホームで家にひとりでいる時間が長すぎて退屈したとか、寂しかったという人も多い。
ストレスのある会社での人間関係からリモートワークで解放されたと思う人もいるでしょうが、やはり顔を合わせないと仕事が捗らない、不安になる、寂しいわけではないけれど、あったほうがいいと思ったりするものです。
会社のランチやティータイムで同僚と話す何気ない世間話やうわさ話をそのままリモートワークに移し替えるのはなかなかできないもの。
ほとんど機械的に交わしていた、おはようございます、お疲れさま、お願いします、ありがとう、という当たり前の挨拶にも何か大切なものがあったのだと感じているかもしれません。
おひとりさまと言っても、24時間ひとりというわけではないのです。
職場や学校、コミュニティなどで濃淡はあれど、人と一緒の時間があったはずだからです。
それが、ステイホームの期間は、ほとんどなくなってしまって、孤独というものと真正面に向き合う生活を経験したわけです。

毎年9月になると40日の夏休みが終わり、自分の子どもを大切に思い愛しているお母さんでも、やっと解放された!と喜ぶ声を何度聞いたことでしょう。
昔のテレビコマーシャルで大ヒットしたフレーズ、これは殺虫剤のCMなのですが「亭主元気で留守がいい」というのがありました。 中国ではコロナで若い人でも離婚する人が増えたそうですが、日本の熟年離婚現象も、夫が退職して家に24時間いるようになり、妻の我慢の限界を超え、二人きりで24時間の生活は勘弁して欲しいと離縁となるものです。
離婚していなくても、事実上の家庭内別居、家族関係の崩壊は珍しくありません。

ステイホームは、ちょっと未来の予行演習

考えてみると、このステイホームの時間は、会社を退職し朝から晩まで家にいて顔を付き合わす夫婦の老後の生活、そして、ひとり暮らしは気楽でいいなと思っている、おひとりさまにも現役後の本当のお一人さまの暮らしとはどういうことかを突きつけたのかもしれません。
人というものは、ちょっと勝手なものなのです。 ひとりで暮らす人は寂しいと思い、誰かと共に暮らす人は、時にはひとりになりたいと思うものです。自分に無いものを求めるのです。

今回の緊急事態宣言の中でほとんどの人がいつもと違う生活をしたと思います。
家族のある人で、いつもと全く違う密度の関係をどう思ったでしょうか?
リモートワークで夫婦共々ステイホームの時間が長く、煩わしさを感じた人に、本当にひとりの生活をした人に、ぜひ想像していただきたいです。
そんな遠い先の未来でもなく、仕事のリタイアをした後は今回のコロナの時のような生活が長期間続くということを自覚してほしいのです。
夫婦二人で過ごす時間が人生の最後まで続くと思った時に、あなたはどう思うでしょう。

夫が会社ばかりの生活で、会社以外の人とのコミュニケーションが希薄の場合は、退職後は、妻との関係をより深くしようとするかもしれません。
それがお互いの関係を長続きするために弊害にならないか考えていただきたいのです。
夫婦の関係を良好にするためには、ある程度の自由と距離感が必要だとどちらかが一方でも感じる夫婦は、夫婦としてのいい距離感を作る努力が必要です。
それは、自分が感じている以上に、相手がどう思っているかを探ってお互いが納得できる距離感を探る努力なのです。
そして、老後を迎えるまでの間に新たな人間関係や、個々に過ごす時間を作る準備をしなくてはいけません。

夫は妻との時間を楽しみにしていても、妻は現役時代以上の密な関係は求めていないかもしれません。
妻の受忍限度を超えた関係を夫が求めるようになると、それは家庭内別居や熟年離婚という、夫にとって最悪な結果に繋がりかねないのです。

また、専業主婦、もしくは、所得の低い妻にとって最悪なのは、自分自身の人生でまだ体などが自由になり行動的な老年期初期までに、夫の経済力がなくては生きていけないからと、いろいろ我慢して夫の求めるままに、生きていかなくてはならない状況から解放される必要があります。いざとなったら!という状況になるだけで、どれだけ気持ちが楽になるか、考えていただきたいです。
そうです。出来るだけ、夫の経済力の束縛から自由になる方法を考えるべきなのです。そのためにも早いうちから夫婦がそれぞれに自由になるお金を明確にしておきたいものです。

ちょっと未来に必要になるのはどんな資金?

例えば、夫は厚生年金などで積み上がっていく老後のお金があります。それなら現役時代の夫の収入は日々の生活費に使い、パートなどの妻の収入にもしも余裕がある場合は、妻の名義での老後の資金を作っていく、そういう一工夫があってもいいはずです。

まとめます。
人生100年時代と言われます。
老後は長い。そして、その時間は人生の中で最も多くの自由時間となるのです。
ですから、今回のコロナの自粛生活から、将来の自分の生活を想像してみてください。

老年時代の生活に入るまでに準備しておきたいことを考える。
お金のこと、未来の夫婦の在りようについて、おひとりさまも、どのような人間関係を持っておくことが必要なのか。
趣味やスポーツ、社会活動など、多岐に渡るはずなのです。どのような準備が必要なのか考えてみましょう。
なぜなら老齢期になってそれらを楽しむためには、中年のころから始めたほうがいいに決まってるからです。
家族以外の繋がりを自分や伴侶に持ってもらうことが、夫婦関係をより良好に保つために必要だと考えたら、その様な準備を始める。
自分は求めていなくても、相手はきっと求めているだろうと考えるのならば、始めてみることが必要です。

また、なあなあにしてきたお金の準備や手立ても必要です。
もう一度申し上げます。 夫名義の預貯金などの金融資産はあっても、妻名義のものが全くないというのは不健全です。
夫の厚生年金が老後資金の主なものということになると、夫の死去の後に、妻がおひとりさまになったあとに受け取れる年金は相当減ります。

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おひとりさまの家計経済学

佐藤治彦

「普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」「普通の人がケチらず貯まるお金の話」でシリーズほぼ12万部の経済評論家、佐藤治彦のおひとりさまと、将来おひとりさまになりそうな人が、直面する経済と生活の問題を真正面に取り上げて、その具...もっと読む

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SatoHaruhiko 好評連載中「おひとりさまの家計経済学」。今回はコロナの自粛生活で考えてほしい、それぞれの未来のこと。とても大切なことを語らせてもらいました。ぜひ読んでみてください。今なら全編無料で読めます。 https://t.co/HwSXJwk0we 4ヶ月前 replyretweetfavorite