ヤタ皇女を皇后に。メトリとハヤブサワケの逃避行①
仁徳三十八年正月六日、ヤタを皇后としました。
七月、天皇は、皇后と高台に出て涼んでいました。
そのころ毎夜、兎餓野(とがの)※1から鹿の鳴く音が聞こえてきました。その声はさやかで悲しく、二人は哀れに思っていました。
月末になると、鹿の声が聞こえなくなりました。それで、天皇は皇后に、
「今宵は鹿が鳴かないが、どうしたのだろう」
と言いました。翌日、猪名県(いなのあがた)※2の佐伯部(さえきべ)が、贈り物を献上しました。
天皇は、膳夫(かしわで)に命じて、
「その贈り物は何か」
と尋ねさせました。
「鹿です」
という答えでした。
「どこの鹿か」
「兎餓野です」
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