純猥談

さっき作った2人分の料理を、ぐちゃぐちゃにして捨てた。

君との関係はただの友達で、きっとお互いに恋愛感情はない。
二人で飲みにいくことは多々あれど、必ず外で飲んでその後にお互いの家に行くこともなく、そのままバイバイする。 それがわたしたちのセオリーだった。


「たこ焼きがしたい」

と君に連絡をすると、「来週末仕事が休みだから、俺の家のたこ焼き器持っていくね」と返ってきた。

そんなこんなで君が初めてわたしの家に遊びにくることになった。

お酒も飲むだろうから、お泊まりで。


君との関係はただの友達で、きっとお互いに恋愛感情はない。

二人で飲みにいくことは多々あれど、必ず外で飲んでその後にお互いの家に行くこともなく、そのままバイバイする。

それがわたしたちのセオリーだった。


そんな君との関係だからこそ、初めてわたしの家に来るということと、泊まって帰るという未来になんの想像もできないまま1週間が過ぎた。

とりあえず、床のラグを新しいものに変えたり、ドライフラワーを新しくしてみたり、念入りにお風呂掃除をしてみたり、お布団を洗濯してみたりと、出来ることは色々とやった。


わたしは元々、家に人を呼ぶことがあまり好きではない。

完全にプライベートなこの空間に他人を入れるということ自体や、生活感を見られるということがどことなく苦手なので、基本的にわたし以外の人は家に入れたくない。

だからこそ、粗相のないように一週間きっちりと掃除をした。

たこ焼きだけじゃ味気ないだろうから、と料理とおつまみもいくつか作る準備もした。

いつも一緒に飲んでいるから、なんとなくの感覚で君の好きなものが分かる。

「お前、料理できるの?」 なんて言われたから、見返してやろうという気持ちもあった。


当日、二人で買い出しに行く。

わたしがカートを押して、君が隣を歩いているのがなんだか不思議だったけれど、滑稽でもあって笑ってしまった。

ずらっと並んだお酒を前に「どれ飲む?」 なんていう単純な会話ですら、周りから見ると恋人同士に見えるのかな、とかそんなことを考えてしまい、また可笑しくなった。


わたしの家に着くと、君は 「普通の部屋じゃん。もっとぬいぐるみとかあるのかと思った」と言って、ごろんとそのあたりに寝転がった。

どんな偏見だよ、と思ったけれど、初めてきた家で落ち着いてもらえていることが嬉しかった。

時折君と話しながら、いつもはわたし一人の空間に、誰かがいる違和感を味わう。

乾杯してから、君が焼いてくれたたこ焼きを食べた。

いつもなら他愛もないことを話しながらずっと笑っているわたしたちが、珍しく静かに映画を観ている。なんだか不思議。


君はいつもよりお酒が進んでいないみたいで、ひたすら 「あー、しんどい」 を繰り返す。

今日一日忙しかったから、疲れているんだろうと思った。

それから結局、お酒も1缶の半分しか飲んでいないまま、君はお風呂に行ってしまった。


わたしは使った食器を洗って、残った材料を冷蔵庫に入れた。

冷蔵庫にはまだ出していないシーザーサラダやサーモンのマリネ、お肉料理の下準備をしたものが入っていて、これ出番あるのかな、と考えたけれど、食べれなかったらまた明日二人で食べればいいか、と思った。

お風呂から上がった君は少し元気になっていて、飲めそうだというのでわたしは残りの料理を始めた。

でも君は、あともう少しで全て完成する、というところでいきなり


「ごめん、帰るわ」 と。


「え、帰るの?」

「うん、なんかしんどいし。今なら帰れそう」

「でもお酒飲んでるし」

「まあなんとかなるよ」

「危ないって。寝て帰りなよ」

「いや、迷惑かけたくないし」

そんな会話をした後、君は本当にあっけなく帰ってしまった。


わたしは君を見送った後、一人で部屋に帰ってきてただ呆然と座り続けた。


二人分出来上がった料理とわたし一人しかいない部屋。

さっきまで見ていた映画も雑音でしかなかったので消した。

いつも流している音楽も流れていない無音の部屋で、ただひたすらぼうっと座り続けた。


本当にしんどくて帰ってしまったのか、はたまたそうでないのか。

結局どうして帰ってしまったのかもわからず、残った料理と君への思いがどこにもぶつけられないまま、それらがわたしの中でどんどん大きくなっていく。


しばらく経って、君から「無事家に着きました。今日はごめん。埋め合わせはどこかでします」と連絡が来た。


いつもならすぐ返すけれど、返せないままのスマホをテーブルの上に置いて、作った二人分の料理を、ぐちゃぐちゃにしてゴミ箱に捨てた。


明日の朝だってお昼だって、二人分のご飯を作るつもりで材料を買ってきていたのに。


半泣きになりながら残ったたこ焼きの材料も捨てた。
飲まなかったお酒も全部捨てた。

君がこの部屋にいた形跡を全てゴミ箱に突っ込んだ。


別に好きなんかじゃない。
ただの友達。 きっとお互いにそう。

だからこそ次どんな顔をして会えばいいのかわからなくなってしまった。

君の気持ちも全くわからないし、君もきっとわたしの気持ちなんてわからない。
勝手に期待してたわたしがダメなんだ。

スマホを手に取り、

「無事着いてよかったよ。ゆっくり寝てね」

なんてよそよそしい文章を送って、ベッドにもぐりこんだ。


今夜、君と二人で眠るはずだったこのベッドにわたし一人で。




写真のご提供:https://www.instagram.com/monburan__1117/

この連載について

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純猥談 編集部

誰もが登場人物になったかもしれない、現代の性愛にまつわる誰かの体験談が純猥談として日夜集まってきています。様々な状況に置かれた人たちから寄せられた3000件を超える投稿の中から、編集部が選りすぐった傑作を公開していきます。

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コメント

sirun_n こういう小説いっぱい書ける 約11時間前 replyretweetfavorite

Yamoyamo_yamomo 何も言わずに心地よく続く関係、なんてないんだよねきっと🥺 1日前 replyretweetfavorite

kuroi_mitu 文が美しい… 1日前 replyretweetfavorite