すべては「数字」になる?
最近、毎日エクセルを起動するようになりました。ファイルの中身は単なる数字の羅列ですが、これが非常におもしろいんです。
開いているのは、二月の頭にオープンした「ゲンロンカフェ」の売り上げが記録されたファイル。イベントごとの来場者数や予約数のほか、飲食物や物販の売り上げも事細かに記録されています。ぱっと見では無味乾燥な数の並びですが、これがとても示唆的で、勉強になるんですね。
ゲンロンカフェでは、ゲスト講師による「ゲンロンスクール」という連続講義イベントを開いています。チケットは複数回をセット販売するのではなく、講義が終わったあと次回のチケットをその場で販売するようにしています。これはたまたま導入したシステムだったのですが、期せずして、人気を測るバロメーターになっているんですね。
数字を見るだけで、講義の評価がすぐにわかってしまう。登壇者からすると非常にシビアなシステムだと思います。かくいうぼくも同じシステムで壇上にあがっているので、イベント前はやはり緊張します。ふだんのイベントでは味わえない感覚です。
ほかにもいろいろ情報が読み取れます。意外なこともわかります。たとえば、講師がサービス精神旺盛で、イベントを延長し、質問にもすべて答えて……とお客さんの要望を満たしてしまうと、かえって売り上げが伸びない。
お客さんがイベント後も店内に残ってお酒を頼んでくれるためには、「おもしろかったけれどちょっと聞き足りない」という不満が残らないとだめなようです。お客さんが満足するまで話をするのは、経営的な観点からするとかえってマイナスだったりする。ぼく自身も実際はイベントは延長してしまいがちなので、話を盛り上げつつも、どんどん利益が目減りしている! と危機感を覚えたりもしています(笑)。
経営者として見ると、出版社とカフェの最大の違いは、アクションに対してすぐに結果が返ってくるところですね。試行錯誤の甲斐あって、売り上げは伸びていっています。照明を暗くしたり、BGMを流したり、あるいは壁にメニューの写真を引き伸ばして貼ってみたり、ぼくも細かく指示を出しました。そのひとつひとつでエクセルの数字ははっきり上向くんです。ゲーム感覚で楽しいですよ。
いままでぼくはコンテンツの制作に注力してきましたが、ものを書いたり本を作ったりするのは、本質的に孤独な行為です。しかも博打の要素が強い。半年や一年をかけて本を作っても、反響は発売後数日でだいたいわかってしまったりする。いちど流れが見えてしまうと、あとはほとんど打つ手がない。ネットでいくら盛り上げたところで限界があって、せいぜいアマゾンのランキングが上向く程度です。出版はやはり基本の数字が大きいですからね。
それに比べると、飲食店はツイッター経由で十数人お客さんが増えるだけで、十分数字が上向いたりする。五〇席のイベントスペースを運用するのであれば、ツイッターの力はとても有効です。ぼくもようやく、一一万人のフォロワーの力を有効に使えている気がします。
二〇歳、はじめての海外旅行
というわけで、今月はエクセルばかり見ていて引きこもっていた……というわけではないのですが、カフェが中心で遠出をするタイミングもありませんでした。そこで少し、昔の記憶を掘り起こしてみたいと思います。一九九〇年代初頭、ぼくが東大の駒場キャンパスに通っていたころです。
いまでは毎年複数回海外に行くことが習慣のようになっていますが、大学に入るまでは、海外に行ったことはありませんでした。正確に言うと三歳のときに家族旅行でハワイに行っているようなのですが、これはほとんど記憶がない。海外旅行を楽しむような家庭ではなかったため、長らく機会がありませんでした。
はじめての渡航は、あれはたぶん一九九一年、友人と二人で行った韓国旅行です。韓国を選んだのは、距離や費用が手頃だったということもありますが、第二次世界大戦の史跡に関心があったことも影響しています。
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