第1回】デフレを脱却するとどういう社会になるのか

経済が右肩上がりの時代はもうやってこない……。先行きの不透明ないま、せめて向こう数年を楽しく働き、充実して生きるためにはどうすべきか。40歳以下の各界のトップランナーたちがわかりやすくアドバイスするアンソロジー『5年後働く自分の姿が見えますか?』。今連載では、本書より経済学者の飯田泰之・明治大学准教授の論考をご紹介いたします。

 長かったデフレ不況の出口が、ようやく見えはじめました。アベノミクスの金融政策は、「リフレ派」と呼ばれているわれわれの主張に非常に近いですから、一本目の矢を私は高く評価しています。

 リフレ、すなわち「リフレーション」を簡単に言うならば、金融緩和によって緩やかなインフレを起こし、景気をよくしていこうという政策です。

 マクロ経済政策を取り入れた第二次安倍政権のもと、かねてからリフレ論を唱えてきた黒田氏が日本銀行総裁に就任、「2年間で2パーセント」というインフレ目標値を設定して金融緩和を導入したことで、脱デフレへの道筋が非常に現実味を帯びてきました。市場の期待インフレ率も上昇し、景気判断の引き上げが続いています。

 とはいえ、金融政策が実体経済に本格的に効果を及ぼすまでにはある程度のタイムラグがあります。さらには、金融政策のみならず、財政政策にしても、構造改革にしてもそうですが、政策が効くか効かないかはその継続性にかかっている。半年後、一年後に政権がどうなっているかわからないようでは政策を信用することもできませんが、長期安定政権との予想が支配的になれば、それに沿うように民間主体の行動が変わる。そこで、より効きがよくなるのです。
 2013年7月の参院選の勝利を受け、自公政権はひとまず3年は続くであろうということがわかった。仮に、また体調問題などで安倍体制が崩れるようなことがあったとしても、後継首相によってこの路線が受け継がれていくとすれば、政策の大枠が変わるとは考えづらい。その意味で、日本はとうとう十数年ぶりにデフレからの脱却が見えてきたところです。

 さて、この長いデフレで得をしていたのはどんな人たちでしょうか。

 端的に言えば資産を貯め込んでいた人たちです。名目固定資産を持っている富裕層、それも会社を経営しているとか積極的な資産運用をしているタイプというよりは、自分自身は動かずに銀行や社債で資産形成しているタイプの人たちです。
 これが日本の場合は、60代以上の中高年層に多い。退職金を手にして、数千万の老後資金を定期預金とか個人向け国債とか債権シェア率の高い投資信託といった形で蓄え持っているリタイア世代です。この層はボーティングパワー(投票力)がありますから、政治家は彼らを敵に回すようなことをあまりやりたくない、というところがあります。

 では、インフレに転じるとこれがどうなるか。

 貨幣価値が下がりますから、たんす預金やただ銀行に貯金しておいたのでは資産は目減りします。自分で何かしていないと損をするようになるわけです。借り入れや投資がしやすくなるので、ビジネスをやろうとする人が動きやすくなります。
 円安に向かうことで、輸出も拡大します。海外に移転していた工場の一部は日本に戻ってくるでしょうし、少なくともこれまでのような雇用の流出は少なくなる。経常収支に関しても徐々に改善していくでしょう。
 景気がよくなる—要は需要が増えれば、生産が増えます。自ずと雇用も増え、失業者が減ります。産業界が活況を取り戻せば、リストラのリスクも減ります。就職もしやすくなりますし、賃金も上がりやすくなる。
 緩やかなインフレは、今働いている人、これから社会に出て働こうとしている人に、多くのメリットをもたらします。働く世代が得できるようになるのです。

 日本はもう20年も低迷を続けています。私がリフレを唱えているのは、停滞しきった日本経済を好転させたいということもありますが、自分では動かない人たちに有利な経済状況がこれほど長く続くのは問題である、という認識からでもある。

 今の40歳から下の世代は、景気のよい社会というものを体感したことがありません。それに比べると、デフレで得をしてきた中高年の富裕層の人たちは恵まれた時代を過ごしてきた。社会の中核にいた頃にはバブル経済期、いろいろおいしいことを味わってきている。インフレになるとその人たちが損をすると言っても、超安定資産の実質価値を数パーセントずつ削っていくくらいのことなのでそこは許していただきたい。好景気を知らない世代にも、高揚感のある世の中を少しは享受させてやってもらえないだろうか、というのが私の考え方です。

角川新書

この連載について

5年後働く自分の姿が見えますか?

飯田泰之

経済が右肩上がりの時代はもうやってこない……。先行きの不透明ないま、せめて向こう数年を楽しく働き、充実して生きるためにはどうすべきか。40歳以下の各界のトップランナーたちがわかりやすくアドバイスするアンソロジー『5年後働く自分の姿が見...もっと読む

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kadokawaone21 飯田泰之先生 @iida_yasuyuki の特別動画インタビューを追加しました! 4年以上前 replyretweetfavorite

consaba #synodos #アベノミクス 4年以上前 replyretweetfavorite

kadokawaone21 cakesにて新連載! 本日より9月新刊『5年後働く自分の姿が見えますか?』の連載が始まりました。本書より飯田泰之先生 @iida_yasuyuki の論考をご紹介していきます!→ 4年以上前 replyretweetfavorite