いいま・ひろあき/『三省堂国語辞典』編集委員。著書に『ことばハンター』(ポプラ社)、『知っておくと役立つ 街の変な日本語』(朝日新聞出版)、『辞書を編む』『小説の言葉尻をとらえてみた』(共に光文社)、『国語辞典のゆくえ』『つまずきやすい日本語』(共にNHK出版)など多数。
──言葉の正誤についてどのようにお考えでしょうか。
言葉は変化することが本質です。法律も文部科学省も「この言葉はこう使うべきだ」と決めることはできません。言葉に絶対的な正誤はないのです。
もっとも、だから言葉はどう使ってもいい、というわけではありません。上司に「この仕事、やっておいて」なんて言えませんね。その場その場に適切な言いかたがあります。判断するのはあくまで「自分」です。
日本語の歴史を振り返ってみると、現代語で起こっているような言葉の変化は過去にも起こっています。
例えば、現代語では「読めない」「書けない」と言いますが、江戸時代以前には「オレにはそんな本は読まれねえ」のように、「読まれない」「書かれない」と言っていました。ところが、江戸時代の間に「読めない」「書けない」の形が広まってきたのです。
「見られる」を「見れる」と言う「ら抜き言葉」と非常によく似た文法の変化ですが、これを批判する当時の文書は見つかっていません。でも今、同じような変化が起こると、なぜか「日本語の乱れだ」と言われてしまうわけです。
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