ノーラはキッチンの窓辺に立ち、暗闇に目を凝らした。冬の日暮れはあまりにも早く、一日がまるまる闇の中で過ぎるかのようだ。ザックは数時間前に帰っていき、多くのアイデアと注意を残していった。でもいまは、キッチンの窓から街灯の明かりを受けて踊る雪片を眺めながら、ただ考えることしかできなかった。
物音が聞こえて振り返ると、ウェスリーがドア口に立って、こちらをじっと見ていた。
「いつからこんな暗いところでぼんやりしてるの?」
ノーラはため息をついた。
「暗くなってからずっと」
ウェスリーは部屋の明かりをつけようと手を伸ばした。
「つけないで」
ウェスリーは手を下ろした。
「暗闇でも書けるなんて知らなかったよ」
ノーラは彼にかすかな笑みを向けた。
「暗闇の中で私に何ができるか知ったら、あなた驚くわよ」
ウェスリーは顔をゆがめた。
「ザックはそのことを知ってるの?」
「ううん。彼は私をただの物書きだと思っているわ。そう思わせておきましょうよ」
「僕はなんだかいやだな」
「ウェス、あなたがこの仕事の契約をしたとき、私が何者かあなたは知ってたわね」
「ノーラに一緒に暮らそうと言われたとき、そのことを僕がどう感じたか、ノーラは知ってた」
ノーラはゆっくりと深く息を吸った。
「それでもあなたは引っ越してきた。それはどうして?」
ウェスリーは顎を上げてただ彼女を見ている。
「“彼の沈黙がすべてを語る”ね」
ノーラは窓から離れて、戸棚からワイングラスを取った。
「何してるの?」
ウェスリーは暗いキッチンの奥へ進みながら尋ねた。
「あなたがふくれっ面をする気なら、私は飲もうかな」
高価な赤ワインをグラスに注ぐ。
「赤ワインは糖尿病にいいって何かで読んだわ。欲しい?」
「僕はふくれっ面なんかしてないよ。いらない」
「あなたがしないことはたくさんあるわね」
ノーラはキッチンテーブルの上に座った。向こう側のウェスリーを見て、話すことも、この場を離れることも、目線で制した。
「宿題があるんだ」
彼が言った。
「だったら行けば」
ノーラはドアを指し示した。
ウェスリーが横を通り過ぎようとしたが、ノーラは彼の胸に手を伸ばして止めた。
「やっぱりここにいなさい」
ノーラはゆっくりとワインを飲んでから、グラスをテーブルに置いた。彼のシャツをつかみ、自分のほうへ引っぱって、膝のあいだに立たせる。彼は無表情で、目を見ようとしない。
ノーラは彼の胃のあたりに手を置き、Tシャツ越しに筋肉が震えるのを感じて微笑んだ。
「ノーラ、やめて——」
「ソルンと私はよくキッチンテーブルの上でゲームをしたわ」
ウェスリーの懇願を無視して言う。
「話したことあったかしら」
「いや」
ノーラがシャツを引き上げてその下に両手を差し入れると、ウェスリーは目に見えて緊張した。彼のあたたかな肌にてのひらを押しつける。
「シンプルなゲームよ。彼がワイングラスを高価な赤ワインで満たし、テーブルの縁に置くの。そして私をファックする。激しくね」
ウェスリーがたじろぐと、ノーラはにやりと笑った。
「もし私がじたばたしたり抵抗したりしてグラスを落とすと……その夜に流れる赤い色はワインだけじゃなくなるの」
ウェスリーはそのイメージを遮断しようとするかのように目を閉じた。
「ほんとはね」
ノーラはウェスリーの胸を爪でなで上げ、また腹に戻った。
「私、ときどきわざとグラスを落とすのよ」
「僕はノーラとそんなゲームをする気はないよ」
ノーラは彼の胸と脇腹のデリケートな素肌を容赦なく愛撫し続ける。
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