第12回】ノーラの秘密

「あなたは私が何者か知ってたわね?」そうウェスリーに問いかけるノーラ。2人の会話は、徐々に彼女の秘密の部分へと迫っていきます。そして彼女はウェスリーを強引に引き寄せて……。大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社の刺激的な新レーベル”エロティカ”より発売中の小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』をお届けします。

 ノーラはキッチンの窓辺に立ち、暗闇に目を凝らした。冬の日暮れはあまりにも早く、一日がまるまる闇の中で過ぎるかのようだ。ザックは数時間前に帰っていき、多くのアイデアと注意を残していった。でもいまは、キッチンの窓から街灯の明かりを受けて踊る雪片を眺めながら、ただ考えることしかできなかった。
 物音が聞こえて振り返ると、ウェスリーがドア口に立って、こちらをじっと見ていた。

「いつからこんな暗いところでぼんやりしてるの?」

 ノーラはため息をついた。

「暗くなってからずっと」

 ウェスリーは部屋の明かりをつけようと手を伸ばした。

「つけないで」

 ウェスリーは手を下ろした。

「暗闇でも書けるなんて知らなかったよ」

 ノーラは彼にかすかな笑みを向けた。

「暗闇の中で私に何ができるか知ったら、あなた驚くわよ」

 ウェスリーは顔をゆがめた。

「ザックはそのことを知ってるの?」

「ううん。彼は私をただの物書きだと思っているわ。そう思わせておきましょうよ」

「僕はなんだかいやだな」

「ウェス、あなたがこの仕事の契約をしたとき、私が何者かあなたは知ってたわね」

「ノーラに一緒に暮らそうと言われたとき、そのことを僕がどう感じたか、ノーラは知ってた」

 ノーラはゆっくりと深く息を吸った。

「それでもあなたは引っ越してきた。それはどうして?」

 ウェスリーは顎を上げてただ彼女を見ている。

「“彼の沈黙がすべてを語る”ね」

 ノーラは窓から離れて、戸棚からワイングラスを取った。

「何してるの?」

 ウェスリーは暗いキッチンの奥へ進みながら尋ねた。

「あなたがふくれっ面をする気なら、私は飲もうかな」

 高価な赤ワインをグラスに注ぐ。

「赤ワインは糖尿病にいいって何かで読んだわ。欲しい?」

「僕はふくれっ面なんかしてないよ。いらない」

「あなたがしないことはたくさんあるわね」

 ノーラはキッチンテーブルの上に座った。向こう側のウェスリーを見て、話すことも、この場を離れることも、目線で制した。

「宿題があるんだ」

 彼が言った。

「だったら行けば」

 ノーラはドアを指し示した。
 ウェスリーが横を通り過ぎようとしたが、ノーラは彼の胸に手を伸ばして止めた。

「やっぱりここにいなさい」

 ノーラはゆっくりとワインを飲んでから、グラスをテーブルに置いた。彼のシャツをつかみ、自分のほうへ引っぱって、膝のあいだに立たせる。彼は無表情で、目を見ようとしない。
 ノーラは彼の胃のあたりに手を置き、Tシャツ越しに筋肉が震えるのを感じて微笑んだ。

「ノーラ、やめて—」

「ソルンと私はよくキッチンテーブルの上でゲームをしたわ」

 ウェスリーの懇願を無視して言う。

「話したことあったかしら」

「いや」

 ノーラがシャツを引き上げてその下に両手を差し入れると、ウェスリーは目に見えて緊張した。彼のあたたかな肌にてのひらを押しつける。

「シンプルなゲームよ。彼がワイングラスを高価な赤ワインで満たし、テーブルの縁に置くの。そして私をファックする。激しくね」

 ウェスリーがたじろぐと、ノーラはにやりと笑った。

「もし私がじたばたしたり抵抗したりしてグラスを落とすと……その夜に流れる赤い色はワインだけじゃなくなるの」

 ウェスリーはそのイメージを遮断しようとするかのように目を閉じた。

「ほんとはね」

 ノーラはウェスリーの胸を爪でなで上げ、また腹に戻った。

「私、ときどきわざとグラスを落とすのよ」

「僕はノーラとそんなゲームをする気はないよ」

 ノーラは彼の胸と脇腹のデリケートな素肌を容赦なく愛撫し続ける。

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セイレーンの涙—見えない愛につながれて

ティファニー・ライス

大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社から、刺激的な新レーベル“エロティカ”が初めて刊行されました。これを記念してcakesでも、“エロティカ”から9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部...もっと読む

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