いとい・しげさと/コピーライターとして、数々のコピーや作詞、文筆、ゲーム制作など多岐にわたる分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設した。2016年に株式会社ほぼ日を設立し、社長を務める。2017年には東証ジャスダックに上場。主力商品の「ほぼ日手帳」は年間約80万冊を売り上げている。2019年11月に開業した新生「渋谷PARCO」に2つのスペースがオープンした。
──「書くこと」が苦手と思っている人は多いと思います。メールであれば、文章力や表現力への苦手意識だったり、紙であれば、字が下手で文字を書くこと自体が嫌いだったり。そうした人が書くことを楽しめるようになるコツはありますか。
まずは文章を書くということを意識しなくていいのではないでしょうか。手帳などに単語をカタコトで書いたり。それなら得意も苦手もないから。たとえば外国に行ったときに、カタコトのことばで成り立ったりするじゃないですか。あれに近いことは書く文章にもあると思う。メモを書いていくうちにだんだんと違うことが見えてきた、書く習慣が身についてきた、ということはよくあります。
書くことにずうずうしくなればいいんじゃないでしょうか。表現は全部、ずうずうしさがないとダメですよね。カラオケなんかは案外みんな、ずうずうしく歌いますよね。昔はカラオケであまり歌わなかったんですよ、みんな。歌う人が珍しいくらいで。「いいよいいよ」とか言いながら何とかごまかして歌わない人は山ほどいた。でも、一回歌うと気持ち良くなるんですよね。カラオケは明らかに文化を変えた。誰もが人前で表現するようになった。それと文章を書くことも同じじゃないかなあ。
──変に意識せずに、まずは書いてみると。
ええ。僕の子どもが昔、「おなかがすきました。なにかください。なにかありますか。」という置き手紙をしていて。とても下手な字で書いてあったんだけど、その3行がすっごく気に入ってファイルに入れて取っておいた記憶があります。ゲームの中のキャラクターのセリフにしたり。いい文章ですよね。おなかすいたんだよ。何か食べものが欲しいんだよ。それは絶対、通じるんですよね。
文章の上手下手は一回忘れたほうが
いい文章を書ける
話すときの声の質やなまり、ことばを文字にしたときの形、すべてが伝わるべきものだし、すべてが伝わるもの。そして、花一輪プレゼントするだけで、ことばよりもいい場合もあります。それもメディア。全体がメディアなんです。
こういうことを知っていて書くことばは、きれいですよ、きっと。だから、文章の上手下手みたいなものは、実は一回忘れたほうが、いい文章を書けるんじゃないかな。
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