ママ友が路上でいきなり娘の髪を…!「不思議すぎて夢見てるみたい」

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装が趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた……。今回は、仙田さんが近所の子どもたちと過ごしたある日曜日の出来事について。「子どもたちの髪を切りにいく」と仙田さんが言うと、ママ友たちは意外な行動にでました。

初めてのヘアドネーション

FineGraphicsさんによる写真ACからの写真

子どもたちの髪が伸びたので、カットしてヘアドネーションの活動をしている団体に送ることにした。

ヘアドネーションとは、病気や事故などで頭髪を失った子どもたちのために、医療用ウィッグをプレゼントする活動だ。

ウィッグを作るための髪は、規定の長さを満たしてさえいれば誰でも寄付することができる—近所に髪を寄付した子がいて、そのお母さんから聞いてあらましは知っていた。

私が通っている美容院に電話をしたところ、ヘアドネーションに対応しているとのことだったので、予約を入れた。

ヘアドネーションをするには15センチ以上か31センチ以上の長さがなければならず、それにあわせて切るとショートボブになってしまう。

そこまで短くするのは初めてのことだ。

2人とも乳児の頃から髪がなかなか伸びず、心配して病院に行ったこともあるが(とくに長女のときは何もかも初めてだったので、いちいち不安になった)、「そのうち生えてきますよ」と言われただけだった。

髪質も細くて薄いため、これまで数えるほどしか切ったことがない。

とくに後ろの髪を、揃えるのではなく短くするために切るのは生まれて初めてのことで、本人たちは楽しみにしているが、私は感慨深かった。

『鬼滅の刃』と9人の子どもたち

美容院の予約が夕方になったので、とりあえず昼ご飯を食べることにした。

休日の昼ご飯はたいてい素麺かチャーハンに決まっている。

簡単に作れて美味しいからだが、そういえば私が小学生の頃の土日の昼食はたいていチャーハンかオムライスで、あるとき「チャーハン飽きたから違うのにして」とクレームを入れたところ、翌週から毎回違うメニューになった。

母親は内心ムカついていただろうな、といまでは思う。

そのうち私もクレームを入れられるんだろうか。

ご飯を食べてのんびりしていると、チャイムが鳴って近所の子どもたちが遊びにきた。

小学生の子が『鬼滅の刃』を観たいというので、テレビをAmazon Primeにつないで観せていると、他の子たちも続々と遊びにきた。

私が子どもの頃に読んでいた藤子不二雄のマンガを黙々と読む子がいれば、おもちゃ箱からリカちゃんやメルちゃんなどの人形を取りだして遊ぶ子もいる。

未就学児の子たちが集まって魚釣りゲームをしている横で、テレビを観ていた子たちがトランプをだしてきて神経衰弱を始めた。

アクションシーンやビジュアルがかっこよく、テンポよく進んでいく『鬼滅の刃』に観入っていた私は、ふと思い立って部屋のなかにいる子たちの人数を数えてみた。

2歳から小4までの子どもたちが9人(!)、8畳ほどのスペースで自由気ままに遊んでいる。

いつからうちは児童館になったんだろうとぼんやり考えていると、子どもたちは飽きたのか、一斉に外にでていった。

遊ぶ子どもたちと、お喋りするママ友たち

ヘアドネーション用にカットした子どもたちの髪

百均で買った4色入りのチョークで、うちの前の道路に子どもたちは絵を描き始めた。

アンパンマン、ラプンツェル、線路、自動車……思い思いに好きな絵を描いている子がいれば、家から自転車やキックボードを持ってきて乗り回している子もいる。

しばらくするとボール遊びが始まり、加わらない子たちはうちの中庭に入りこんで焚火ごっこをやりだした。

焚火ごっことは、スタンド型の物干し台を支えるために置いてあるブロックを4つ組みあわせて、そのなかに拾ってきた短い枝を入れる遊び。

もちろん火はつけないが、焚火のセッティングをするプロセスが楽しいのか、頻繁にやっている。

家の外壁と塀のあいだの50センチくらいの隙間も子どもたちに人気で、ぐるりを一周回る途中にいろんなトラップを仕かけてから誰かにそこを通らせる「お化け屋敷ごっこ」もしょっちゅう行われている。

未就学児も何人かいるので、様子を見ようと私も外にでると、子どもたちのママたちが集まっていた。

立ち話に私も加わる。

週末や平日の夕方にはいつもこんな感じで、近所のママ友たちと話をする。

子育てのこと、保育園や学校のこと、仕事のこと……話は尽きず、気がつくと陽が沈んでいることも少なくない。

子どもたちが寝静まった後にLINEで話すこともあるし、5人のママ友たちと作った「パパママ会」というLINEグループで予定を立てて、子どもたちを連れてみんなで遊びにいったりもする。

みんな優しく、子育ての楽しみ方や肩の力の抜きどころが似ているのか、とても居心地がいい。

集まっても陰口や愚痴の言いあいにならず、ただ笑って楽しい時間を過ごせるところも気に入っている。

ママ友たちの青空カット

この日もそんなふうに話しているなかで、夕方に子どもたちを美容院に連れて行くと言うと、ママ友のモモちゃんがこんなことを言いだした。

—私やったげよか? 子どもたちの髪ずっと切ってたし、できるよ。

重ねてもうひとりのママ友の、りっちゃんもこう言ってくれた。

—私もやるよ、うちの子の髪いつも切ってるし。美容院の予約キャンセルしたらええやん。

私はびっくりしたが嬉しかった。

ママ友たちはつねづね子どもたちのことを気にかけてくれているし、私も近所の子どもたちを自分の子どもと同じように気にかけているつもりだ。

家族だけでなく、近所の子どもたちやママたちに助けてもらいながら子育てをしているという感覚があって、そのことを改めて実感して嬉しくなったのだ。

しばらくして、モモちゃんとりっちゃんがヘアカット道具を持ってうちの前まで来てくれた。

—ヘアゴムある? 15センチの長さでくくらんとあかんよな。

ちなみに京都弁で「くくる」とは「結ぶ」の意味だ。

ヘアドネーション用に、15センチより少し長めに髪を取り、5~6束に分けて結んでいく。

次女の髪はモモちゃんが、長女の髪はりっちゃんの子どもたちが結んでくれた。

私もうでけへんわ

いよいよカットが始まると、子どもたちは穴の開いたビニール袋を頭から被り、まずヘアゴムで止めた箇所の少し上のあたりから20センチ弱ほどの髪を切り落とされた。

私はそれをささっと集めてビニール袋にまとめる。

それから、ざんばらになった後ろ髪を、モモちゃんとりっちゃんは揃えていく。

2人とも手慣れたもので、外側の髪をピンで留めて、内側の毛を漉きバサミで漉いていく。

家の前の路上で、立ったままの子どもたちの髪をママさんたちが切り、その周りを10人ほどの子どもたちが囲んでわいわいと眺めている。

何事かと思ったのだろう、近所の人が家からでてきてずっとこちらを見ていた。

次女の髪がほとんど終わりかけた頃、りっちゃんが首を振りながら長女から離れた。

—ちょっと私もうでけへんわ。モモ、続きやってや。

りっちゃんの子どもは髪をとても長く伸ばしていので、長い髪を少し切る作業には慣れているが、ショートボブにまで短くカットするのは初めてらしい。

いきなり「でけへんわ」と言われて、長女は不安そうに私を見た。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
女装パパが「ママ」をしながら、家族と愛と性について考えてみた。

仙田学

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた。仕事と家事・育児に追われる日々、保育園や学校・ママ友との付き合い、尽きることのな...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません