人生を変える劇薬 「アドラー心理学」がいまの日本に必要なワケ

世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる――。そんな主張を展開する「アドラー心理学」の入門書『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著)が、12月5日にダイヤモンド社から刊行されます。それに先立ちcakesでは、本書の全内容を掲載する「劇薬」連載をスタート!  今回は、連載開始を記念して、18歳のころから生粋の「アドレリアン」だというニッポン放送のアナウンサー・吉田尚記さんと、『嫌われる勇気』担当編集・柿内芳文さんが特別対談。なぜ二人が「アドラー心理学」にひきつけられたのか、その魅力を語っていただきました。(構成:宮崎智之

なぜ、僕らは「アドラー心理学」の信奉者になったか?

柿内芳文(以下、柿内) 以前、吉田さんに「いま、アドラー心理学の本を作っているんですよ」とお話ししたら、「僕も昔から大好きで、大きな影響を受けていますよ!」という答えが返ってきて、びっくりしました。ああ、吉田さんがあんなキャラをしているのは、アドラーのせいなのかって(笑)。

吉田尚記(以下、吉田) そうなんです。18歳のときに読んでいた『ログイン』という雑誌で、サイエンスライターの鹿野司さんが、アドラー心理学を「いちばん、科学的だと思う心理学」と紹介していたのがきっかけで、興味を持ったんですよ。

柿内 アドラー心理学は石田衣良さんや伊坂幸太郎さんの小説に出てきたり、大前研一さんが評価していたり。さまざまな人たちが影響を受けていて、海外ではユング・フロイトと並び、心理学の三大巨頭と言われているんですが……

吉田 ……なぜか日本では知名度が極端に低いですよね。

柿内 そうなんです。僕が知ったのも『嫌われる勇気』の企画が立ち上がったときですし。本著刊行のきっかけは、ライターの古賀史健さんが、共著者である哲学者・岸見一郎先生の本『アドラー心理学入門』(ベストセラーズ)を読んだこと。古賀さんは、アドラー心理学の考え方を知って、ぶったまげたそうなんです。僕も古賀さんからアドラー心理学と岸見先生の話を聞いて、「そんなにすごいなら……」と、二人で京都にいる先生の元を訪ね、話を聞いて、すっかりハマってしまいました(笑)。

吉田 ありそうな話です(笑)。アドラー心理学は、知ってしまうともう引き返せないですからね。

柿内 こういう言い方をすると「自己啓発にハマった痛いヤツ」と勘違いされてしまうかもしれないですけど、僕自身、ずっと抱えていた対人関係の悩みが、岸見先生の元を何度も訪ね(合計6回)、何十時間もかけてお話を聞いていく過程で、きれいさっぱり消えてしまったんです。まるでカウンセリングですね。僕がいちばん驚きました。

吉田 そうなんですか。悩まれていたんですね。一時期、激太りもされていましたし。

柿内 完全にストレスですね……。僕が思うに、アドラー心理学は、表層的で持続力のない陳腐な自己啓発と違って、真の意味での「自己啓発」なのだと思います。「啓蒙」とも言えるかな。カントは、『啓蒙とは何か』のなかで「啓蒙とは、人が自ら招いた『未成年の状態』から抜け出ることだ。未成年の状態とは、他人の指示がなければ自分の理性を使うことができないということだ。人が未成年の状態にあるのは、決して理性がないからではなく、自分の理性を使う決意も勇気も持てないからである。だから言おう。『知る』勇気を持て。自分の理性を『使う』勇気を持つのだ」と言っていますが、まさにこれは、〝勇気の心理学〟であるアドラー心理学のことですよ。知って、使う勇気さえ持てれば、本当に人生が変わったと実感することができます。

吉田 まさか、カントが出てくるとは思いませんでした。なるほどねえ。でも、「人生が変わる」とか言うと、自己啓発書っぽくて嫌がる人も多いですよね。

柿内 そうなんです! でも、そもそもアドラー心理学は、すべての自己啓発の源流ですからね。いまから100年前に生み出された「原点」にして「到達点」。その後の中途半端でウソだらけの偽物が跋扈しているから、自己啓発が痛いイメージになっちゃいましたけど、そういった状況も、この本で覆したいと思っています。

吉田 人生が変わったという意味では、僕も大学4年生のころにアドラー心理学に大いに助けられた経験があります。というのも、まじめな性格だったので、3年次までにゼミを残してすべての単位を取得していたんですね。すでにニッポン放送から内定をもらっていたから就活も済んでいて、週休6日だった。その間、「なにかしなければ」と焦ってTSUTAYAの本棚の前で一日立ち尽くすみたいな日々を送っていて……。要は、心のバランスを崩してしまったんです。そのときに役に立ったのが、18歳のときに知って、そのタイミングで勉強し直したアドラー心理学でした。

柿内 吉田さんにとって、アドラー心理学にはどんな魅力がありますか?

吉田 僕は考えることが好きなんですけど、暗いのは嫌いなんですよ。アドラーの考え方って、ポジティブじゃないですか。

柿内 たしかに、アドラー心理学には前向きな理論が多いですよね。とはいえ、かなりシビアですが。

吉田 フロイトを読んでいても、無意識とかリビドー(性的エネルギー)とかトラウマとか、抽象的で、思考がグルグルして、ぜんぜん楽しくないじゃないですか(笑)。

柿内 たしかに。医者に行ったのにもかかわらず、「薄着をしていたから風邪を引いたんですね」としか言われないような、納得の行かなさがありますね。リビドーとか言われたって、「だからどうした!」って感じですよ。風邪を引いたなら、クスリを出してもらわなければ困ります。

吉田 僕らが本当に知りたいのは、「原因」ではなく「対処法」ですよね。

柿内 そうそう。その点、アドラーは、そのものズバリの対処法を教えてくれます。その代表が、アドラー心理学の根本思想でもある「目的論」ですね。フロイト的に考えると、たとえば「小さいときに両親が離婚したから、それがトラウマになって自分は幸せな家庭を築けない」などと、「過去の原因」に注目しますが、アドラー心理学では、そういった態度・考え方を強く否定します。

吉田 そう、そこが面白いですよね。原因論ではなく、目的論。つまり、「自分が幸せな家庭を築きたくないから、両親の離婚という過去に過度に目を向ける」と、「過去の原因」ではなく「今の目的」に注目するのが、アドラー心理学の立場なわけです。

柿内 過去のことはもう変えられないわけですから、もし人生を変えたければ、「今の目的」に注目して、その目的を変えてしまえばいい。それが、アドラー心理学が教えてくれる、人生を好転させるための1つの対処法ですね。まあ、詳しいことは連載のなかで説明しているので、読んでみてください!

「悪いあの人」と「可哀想な私」

吉田 『嫌われる勇気』の原稿を読んで思い出したのは、僕の卒業論文の題名は「極楽人生」だったということです。

柿内 ええと……(笑)。どんな内容だったんですか?

吉田 その名のとおり、どうやって人生を楽しむか、という研究ですよ。アドラー心理学では、「何が与えられているか」より、「与えられたものをどう活用するか」を重要視するじゃないですか。あの人みたいな容姿だったら……、アイツみたいにお金持ちだったら……などと、「何が与えられているか」を考えたって、「あの人」や「アイツ」になれるわけじゃない。「わたし」は「わたし」でしかありえない。だとしたら、その現実を認めて、それを「どう活用するか」について考えていくしか、前に進む道はないわけですよね。

柿内 その通りです。

吉田 人生を楽しむための根本的な考え方が、そこにはあると思いますよ。非常に前向きな態度です。

柿内 フロイトみたいにネガティブになりませんね(笑)。

吉田 でもアドラー心理学って、前向きなんだけど、同時にちょっと意地悪でもあるんですよね。「あかるくて意地悪」なんです。それも、僕がアドラー心理学を大好きな理由のひとつなんですが。

柿内 というと?

吉田 アドラー心理学の実験で、こんなものがあります。事故などの悲劇、トラブルに遭ったときに、人間がとる立場って、アドラー的に言うと、「悪いあの人」「可哀想なわたし」「これからどうするか」の3つしかないというんですね。で、約9割の人が、前の2つの立場をとる。つまり、自分の不幸やうまく行かないことを、誰かのせいにするか、こんな不幸な自分をあわれんで! というわけです。

柿内 わかります、わかります。

吉田 起こってしまったことはもう変えられないわけで、本当は「これからどうするか」を考えないといけないわけですが、ほとんどの人はそれをしない、できない。そこで、紙でつくった三角柱のそれぞれの面に、この3つの立場を書いて、「これからどんな話をしてもいいけれど、自分がどの立場で話すか、必ずサイコロの面で示してください」と言って渡すと、ほとんどの人が「これからどうするか」の話をするらしいんですね(笑)。

柿内 なるほど、それは興味深いですね(笑)。

吉田 それを聞いたときに、なんてエレガントなんだとうっとりしました。ふだん人は、何かと過去や環境や他人のせいにしてしまいますが、こうやって自分がそうなってしまっていると自覚させると、とたんに建設的なことを話すようになる。すごい皮肉ですよ。でも、泣き叫んだり、感情をいたずらに開放させたりするようなプロセスを経ずに、人の行動を変えている。アドラー心理学の考え方が端的に示されていて、面白い実験だと思います。

柿内 その実験は知りませんでした。

吉田 みなさんも、会議とかで試してみるといいと思いますよ。「部長がダメ」「企画が悪い」と人のせいにばかりしている人も、そのサイコロを渡されると、口をつぐむか、とたんにポジティブなことを言い始めるはずですから(笑)。

柿内 女性の相談事って、ほとんどが「悪いあの人」か「可哀想なわたし」ですよね(笑)。

平松(cakes女性スタッフ) 柿内さん、それは女性に対する偏見ですよ!!

柿内 うわあ、ごめんなさい……(苦笑)。でもホント、その実験は、あかるくて意地悪ですね。 あと、「他人がどう思おうが関係ない」みたいな、ズバっと刀を振り下ろすような切れ味も、アドラー心理学の魅力だと思います。アドラーは「課題の分離」という言葉を使っていますが、たとえ誰かが僕のことを嫌っていたとしても、「僕のことが嫌い」「僕のことを認めない」というのは、相手が解決すべき課題であって、僕の課題ではない。だから他人の課題は切り捨てて、自分の課題だけに集中せよ、とアドラーは言います。シンプルですが、すごい考え方だと思いますよ。実践できるようになったら、やはり人生は変わりますね。ジョブスではないですが、「他人の人生を生きない」ことができるようになる。『嫌われる勇気』にもつながっていきます。

吉田 そうそう、そういう理論と実践が一緒になっていることが、アドラー心理学の魅力なんですよ。「考えるために考える」といった、グルグルしたところがまったくない。考えることの価値って、行動が変わることだと思うんです。考えること自体が趣味な人は、それはそれでいいとは思うんですが、僕はそれだと納得できない。だからアドラー心理学は、本当に僕にぴったりの学問なんだと思います。

現代日本の「武器」になる心理学

柿内 本著には関係ありませんが、僕が編集長をつとめる星海社新書は、「武器としての教養」というコンセプトを掲げています。大きな時代の転換期においては、教養は武器として使えなければ意味がない。そういう意味で、まさにアドラー心理学はとてつもない武器になりえると思います。

吉田 そうですね。本当に、『嫌われる勇気』が必要な時代です。最近は僕たちアナウンサーにも、ネットで「批判スレッド」が立つんですね。Twitterでエゴサーチしてみても、褒めてくれる人がいる一方、嫌いだと言う人もやっぱりいるという感じです。

柿内 批判が可視化される時代ですからね。

吉田 そういったものを読むと、人間ですから、もちろん凹みます。でも、そこに囚われていても意味がないし、反論したとしても、その人の考えを変えることはできない。

柿内 それはその人の「課題」ですからね。

吉田 そうなんです。柿内さんがさきほど紹介した、アドラーの「課題の分離」という考え方は、まさにそういうときの処方箋として使えますよ。僕の言うことや行動に納得できない人はたくさんいますけど、その「納得できない」という感情にどう折り合いをつけるかは、その人の課題であって、僕の課題ではありません。僕は、僕のやるべきことをやるまでです。なんか、アドラーの思想って、まるで今のネット社会を予見していたかのようですよね。

柿内 とても、100年前に言われたことだとは思えません。

吉田 日本は豊かな国ですし、多くの人に多くのものが与えられています。アドラー心理学は、「与えられているもの」を有効活用する学問ですから、与えられているけど活用できないで閉塞感が漂っている今の日本と相性がいいと思うんですよ。全国民がこのアドラー心理学の入門書である『嫌われる勇気』を手にすることができたら、絶対に日本は変わりますね! 断言します。

柿内 現代の日本のために、アドラー心理学は誕生したのではないかと錯覚するくらいですよ。

吉田 でも一方で、「課題の分離」は「自分は自分、他人は他人」とも取れてしまうので、場合によっては、冷たく突き離されたようにも感じられてしまうのが、弱点だと思うのですが……。

柿内 たしかにそれはありますが、連載を読んでもらえれば、その弱点はすべて解消されていることがおわかり頂けると思いますよ。そういえば、いま僕は堀江貴文さんの単行本(『ゼロ』)の編集をしているんですが、堀江貴文さんって、アドラー的な考え方を地でいっている人だと思っていて。たとえば、彼は東大時代に先輩とケンカして、「おまえは他人の気持ちがわからないのか!」と怒鳴られたそうなんですね。そこで堀江さんが言ったひと言が最高で。

吉田 へえ、なんなんですか?

柿内 「他人の気持ちなんて、わかるはずがないじゃないですか!!」ですよ。これはシンプルですが、世界の本質を見事に突いたひと言です。そして、とてもアドラー的。

吉田 まさに真理ですね。たしかにアドラー的だ。でも、正しすぎて、まわりからは冷たいと思われてしまう……。

柿内 堀江さんが人から誤解されやすいのは、いつも正しいこと言っているからなんです。アドラー心理学にも、そういう面はある。では、どうすればそういう反発を読者に起こさせないような本にできるかと考えたときに、「哲人と青年の対話」というスタイルをとることにしました。参考にしたのは、マーク・トウェインの『人間とは何か』。対話篇というのは、ソクラテスとか哲学の世界ではオーソドックスであるものの、一般の方にとってはなかなか新鮮なかたちになっていると思いますよ。

吉田 たしかに、古典的手法ですが、逆にとっても新しいですね。そしてなにより、読みやすい!

柿内 どうしてもみなさんに、アドラー心理学のすばらしい考え方を知ってもらいたいんですよ。だって、ライターの古賀さんや僕自身が大きく人生を好転させることができたから、独り占めをしたくない。だから、いちばん伝わるかたちを模索しました。今回のようにcakesで本になる前にウェブ連載しているのも、とにかく知ってほしいからです。

吉田 そうですよね。僕も、いろんな人にアドラー心理学を知ってもらいたいと思っています。「こんな考え方があるのか!」と驚くと思いますよ。ただ、本著には「スカイダイビングをすると、こんな良いことがあるし、怖くもないよ」みたいなことは書いてあるけど、いちばん重要なのはスカイダイビングをすること、そのものですよね。僕はすべての本は「人生の攻略本」だと思っているので、この連載を読んだら、ぜひアドラー心理学を実践してもらいたいです。

柿内 本当にそうですね。『嫌われる勇気』は、決してひとつの「正解」を提示する啓示書ではありませんが、考える材料としては最高のものができあがったと自負しています。僕の編集人生でも、最高の本です。哲学者・岸見一郎さんとライター・古賀史健さんという、2つの「才能」の掛け算にも、注目してください!

吉田 原稿をぜんぶ読ませていただきましたが、「思想する」人と、それを「書く」人、2人の才能が見事に組み合わさっていると思いましたよ。こんな本のつくり方もあるんですね。

柿内 ありがとうございます。もしこの『嫌われる勇気』を読んで、どこにも引っかからず、スーッと読めてしまった人は、そのまま人生を突き進んでくださってかまいません。まったく問題ありません。でも、少しでも引っかかったり、納得できない部分があったりする人は、その理由を徹底的に考えてみてほしい。本著を読んで、僕みたいに人生が変わる人がたくさん現れることを願っています!

(おわり)

『嫌われる勇気』連載は第一夜無料! 
「これからどうすべきか」を考えたい人必読です。

ケイクス

この連載について

吉田尚記×柿内芳文『嫌われる勇気』特別対談

吉田尚記 /柿内芳文

世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる――。そんな主張を展開する「アドラー心理学」の入門書『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著)が、12月5日にダイヤモンド社から刊行されます。それに先立ちcakesでは、本...もっと読む

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コメント

yamazako_hino 3年前にこんな対談してたのか 10ヶ月前 replyretweetfavorite

kakkyoshifumi 今夜22時〜「嫌われる勇気」第4話!原案書籍発売前にアドラー心理学から大影響を受けたニッポン放送の吉田尚記さん(@yoshidahisanori )と対談した記事が懐かしい→ 約1年前 replyretweetfavorite

yoshidahisanori @uma_klpe @d_davinci うわ、めっちゃうれしいですー、ありがとうございます!!私、アドラー心理学がこんなブームになる以前から大好きで、それがこの本のベースのベースにあるのかもしれません…!! https://t.co/pm4rHHliHu #yoshidabon 1年以上前 replyretweetfavorite

maritter13m https://t.co/bbfszSJ7uk 1年以上前 replyretweetfavorite