チェコとの出会い
チェコを初めて意識したのは、『存在の耐えられない軽さ』じゃないか。ミラン・クンデラ原作のこの映画が大学生の頃すごく流行って、あまりにも気に入った僕は原作まで読んだ。
プラハの医師と女性が知り合い結婚するが、1968年に民主化を押しつぶそうとしたソ連軍が侵入してくる。いったんはスイスに逃げた二人だったが、結局はチェコに戻り、政府に迫害されながら生き続ける、という話だ。
まだぎりぎりソ連が存在していたから、当時はすごく昔の話、という感じでもなかった。とはいえ僕は政治の話はそこまで興味がなくて、驚いたのはこの医師がむちゃくちゃにモテまくる、というところだ。
ダニエル・デイ・ルイスが演じているのだが、人妻の家に忍び込み、「下着を脱いで」と言うと、なんと彼女はパンティーを脱いでしまう! 自分から喜んで! なぜだ。ダニエル・デイ・ルイスが演じているからか。あるいはプラハってそういうところなのか。
そのころは人生に悩み、恋愛に悩んでいた。だからこういう軽い感じの生き方は衝撃的だった。今ならば、この手応えのなさこそ苦しみだ、とわかるが、大学生の僕にはそんな、想像を絶する境地なんて思いもよらない。
カフカとチャペックの迷宮的世界
そしてクンデラのおかげでチェコやプラハに興味を持つようになった。読み始めたのは、定番のフランツ・カフカやカレル・チャペックである。カフカは何と言っても『変身』が好きだった。会社員の主人公が朝、目覚めるとゴキブリっぽい虫に変身している。それでも会社に行こうとするが、もちろん行けない。
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