目的地までに行くまでの間も、自分の人生として慈しむ

連載第13回は土門さんの理想のインタビューについて書かれています。そういえばインタビュー後の土門さんはぐったりしていて、やたらと甘いものを食べたがる。肺の中の酸素をすべて使いきって潜るダイバーみたいに、脳の糖分はカラカラになっているみたい。極端というのも土門さんの特徴のひとつだけれど、サクちゃんとの雑談でだんだんと変化があったみたいです。追記には好きな花が書かれていたけど、蘭は? 蘭はどうなんだろう?(毎週火曜日更新)

サクちゃんへ

こんにちは。
今年はなんだか暑くなるのが遅い気がしませんか?
こっちはようやく初夏という感じ。おとといからやっと半袖を着始め、デザートにはアイス(チョコジャンボモナカ)を食べました。

緊急事態宣言が、どちらの街でも明けましたね。
これからどういうふうになるのかなぁ。とにかく、お互い無事に過ごせますように。

ー・-・-

サクちゃんの「雑談」についてのお話、とても興味深かったです。
安心して「内側の声」を交換し合える相手って貴重ですよね。
「内側の声」ってわりと繊細なので、相手にとってはなんの気なしにでも、否定されたり無視されちゃったりすると、すぐに出てこなくなってしまう。だから、それを安心して差し出せる相手を見つけられたらとてもラッキーです。
いろんな人にとってのそういう存在に、サクちゃんがなっていっているのは、素晴らしいことだと思います。そんな交換の場がひとつ増えると、世界がそのぶん優しくなりますね。

ー・-・-

さて、わたしの仕事のひとつである「インタビュー」について話します。

わたしが初めてインタビューをしたのは、19歳のとき。
相手は、あるオーディションでグランプリを獲ったミュージシャンでした。その記事はフリーペーパーに載ったのですが、活字になったのを見てとても嬉しかったのを覚えています。

あれから15年、インタビューは今のわたしの主要な仕事のひとつとなりました。
でもなんとなく、初めてインタビューしたあの日には、いずれそうなるように感じていたように思います。いつかこういうことを仕事にするのだろうな、と。得意とまではいかないけれど、性に合っているというのでしょうか。素直にがんばれる、というか。
そういうものが、人にはきっと一個や二個あるかと思うのですが、わたしにとっては、「書く」ことと「聞く」ことがそれでした。

「蘭ちゃんはインタビューをするときに気をつけていることや、決めていることなどありますか?」
サクちゃんのこの質問に答えると、割とたくさんあります。

たとえばインタビューの申し込み方、インタビューまでにやっておくこと、インタビュー当日の服装や持ち物、接し方やメモの取り方、インタビュー後のメールまで、自分なりの決め事をいくつも作ってきました。
独学なので足りないところもあると思うけれど、すべて「どうすれば、相手の方がより喋りやすくなるか」という基準で作っています。

インタビューって、すればするほどつくづく思うのですが、「不自然な人間関係」の上に成り立つ「不自然なコミュニケーション」なんですよね。
相手はほとんどの場合、初めて出会った方。そんな方から、挨拶もそこそこに1,2時間で大事な話を聞き出すのですから、無茶なことをしているなと我ながら思います。

だからインタビューではいつも、なるべくわたしが「わたし」でないように、と意識しています。わたしが「わたし」であると、初対面であるということが浮き彫りになり、その事実が邪魔になってしまう。
それならばいっそ「わたし」を消してしまって、ただ言葉を引き出すだけの透明な存在になれるように、といつもほんのり思っています(だから決め事の中に、「取材時の服装はモノトーンで」とか「目立つアクセサリーや香水をつけない」というのがあるんですよ)。

ただ、それでいて、自分にしか引き出せない言葉を引き出したい、ということも思っています。それが、わたしがこのインタビューを担う意味であると。透明なくせに、内心はギラギラしているのですね。

わたしにとって理想のインタビューとは、「答えをもらう」のではなく「答えを一緒に見つける」ことです。この、一緒に、というのが大切。あくまで透明な存在として、「一緒に」問いが指し示す方向の穴を掘っていく。それがわたしの仕事だと思っています。
その結果「こんな言葉があったのか」と、インタビュイー自身も見たことのない言葉に出会えることがまれにあります。それをともに見守れる瞬間が、わたしがインタビューにおいてもっとも欲するものです。

だから、インタビューが終わったときは、ほとんど内容を忘れてしまっているんですよ。
夢中で穴を掘った手の感覚と、「こんな言葉があったのか」と発見したときの興奮の感覚は残っているのですが、具体的になにを話したのかはすっかり記憶から抜けている。それくらい、無我夢中でやっているんでしょうね。
それなので、テープ起こしをすることでようやく落ち着きます。よかった、ちゃんと話が聞けていた、と。

積極的に自分を消すことが、結果、自分らしいインタビューになる。
この方法がいいのかどうかわかりませんが、自分なりに行き着いたやり方ではあります。

インタビューとは、本当に不思議なものだなぁと思います。
15年経っても、まったく慣れないし、上手になっているとも思いません。
おそろしくて、よくわからず、それでいて魅了され続けるもの。

わたしにとって、インタビューは「他人」そのものです。

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サクちゃん蘭ちゃんのそもそも交換日記

土門蘭 /桜林直子

東京でクッキー屋さんをしている「桜林直子(サクちゃん)」と、京都で小説家として文章を書く「土門蘭(蘭ちゃん)」は、生活も仕事も違うふたりの女性。この連載は、そんなふたりの交換日記です。ふたりが気が合うのは、彼女たちに世界の「そもそも」...もっと読む

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