台所で死ねる人、死ねない人

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回はよしもとばななさんから学ぶ「文章に深みをもたせる一文」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。

よしもとばななの意味深力


今のなんだろう? いろんな想像を掻き立てられる。


会話の中に急に出てくるズレた発言。ふしぎな言い回し。
思わず「えっ、いまの、どういうこと?」って聞き返したくなる。
そういう発言をする人っていますよね。

先日、友人たちと飛行機のフライトって慣れるものかね、どうかねという話をしてた時、唐突に「でも私、バス乗るの好きだな」って呟いた子がいました。
「へ、なんでいきなりバスの話?」聞いても、「いやただ、そうなだけ」って答えになってない。

どういうことなんだ。
意味深なことを言ってるのに、「なんでもない」ってはぐらかす……なんなんですかね。
ひとりごとならひとりの時に言うべきだろう。

しかしこんなコミュニケーションが「有効」であることも私は知っています。
ええ、知ってるんですよ。
謎めいたセリフを聞いた時って、その真意を聞かないほうが「あれは一体なんだったんだ ……」と想像がふくらみますものね。
なんでもかんでも理路整然と説明するより、ちょっとくらい「説明不足」なほうが、楽しいんんですよきっと。

この雰囲気作りが、文章でも上手い人っているんですよねー!


一瞬、「いまの一文はなあに?」と首をかしげたくなったのはこれ。


〉窓の外には淋しく星が光る。



冷蔵庫とか台所の話をしていたのに、いきなり窓の外の話。
淋しく星が光る、ってどういうことだろう?
一番星が夜空でひとりぼっちで淋しげに光ってるってこと? 
それとも都会のビル明かりが淋しそうってこと? 

いろんな想像が掻き立てられます。
よしもとばなな先生は、この「星が光る」の説明をせず、「私と台所が残る」と続けました。

星が光る説明を、しないの? 
読み手は余韻にひたりたいのに、ひたらせない!! 

本筋とは直接関係ないけど、関係ありそうな気もする、ちょっと気になる一文。
これは料理に入れるひとさじのスパイスのごとく効きます。

つまり文章全体に深みが増すのです。ほんまやで。たとえば、こんな具合に。


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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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m3_myk cakes更新されました! よしもとばななさんの『キッチン』の文章の秘密について。はじめて読んだとき、内容よりも文体に衝撃を受けた思い出。 説明しすぎても面白くないし、しなさすぎてもわけわかんないし。その塩梅をどうするか。 https://t.co/CbjgaaVEpP 3ヶ月前 replyretweetfavorite