前回「個性が強みになる社会」の話を書きました。
マレーシア社会の話をしていると、「日本ではスキルが高くないと活躍できないです」「日本の教育では個性が育ちません」とか、「日本にもこんなリーダーがいたらいいのに」というご意見をいただくこと、少なくありません。
もしかしたら、「なんだかすごいヒーロー」と「それに従う大勢の人々」がいて、社会が回るイメージがあるのかもしれません。うまくいえないのですが、マレーシアにいると、社会の主役はむしろ普通の人々です。そして一人ひとりは日本とあまり変わらない気がします。
ただ1つ違いがあるとしたら、「能力がない人は、発言したり、活躍したりしちゃいけない」という考えがないことかな。
一人のすごいヒーローがいるわけではない
今回のパンデミック、アジアはどこも比較的うまく対応できているようですが、中でも、マレーシアの人々の落ち着きっぷりに驚く外国人は少なくありません。
当初かなり大きなクラスターを出したのに、死者も少ないです。
もちろん、未知のウイルスなので、わからないファクターがたくさんあります。年齢や男女差、生活習慣も関係しているかもしれません。
ただ、これを不思議に思ってるのは、私だけじゃなかったようです。
Other Side of the TruthというYoutuberの動画がマレーシアで話題です。 世界の全ての国を旅行したというアメリカ人が、マレーシア人はなぜ不可能を可能にするかを解き明かしています。
公開して10日程度で、36万回(!)も視聴され3.9万もの高評価がついたこの動画。タイトルは「How Malaysia Did The Impossible」で、「なぜマレーシアでは不可能が可能になるんでしょうか?」って感じでしょうか。
動画は不吉な前兆から始まります。
「想像してください。あなたの国は大変な政治的危機にあります。リーダーが新しくなり、いくつかの州でも新しい政府が誕生しました。そんな危機の中でパンデミックが発生したのです」
「しかし! 決してマレーシア人の底力をあなどってはなりません」
として、マレーシアが「不可能を可能にした方法」を15個挙げています。
簡単に、内容を紹介します。
No.14 保健省のトップが優秀な医師で、正しい情報を提供し、人々を冷静にした
No.13 MCO(活動制限令)とEMCO(強化された活動制限令)で多くの組織・人が協力して働いた
No.12 食料の配達など間接的なボランティアの働きが効果的だったこと
No.11 一時的な病院を3日で建設したこと
No.10 最大のクラスターである宗教施設にいた人々が指示によく従ったこと
No.9 銀行がローンを6ヶ月猶予したこと
No.8 大学が学生を無料で滞在させ、食事を提供したこと
No.7 政府が400万もの家庭に1600RM(4万円ほど)を給付した
No.6 政治家が政争を一時棚上げして協力したこと
No.5 ホームレスと外国人労働者にテントを提供したこと
No.4 海外から帰国するマレーシア人に二週間のホテル・食事・ウイルスのテストを提供したこと
No.3 最前線で働く人への強いリスペクトがあったこと
No.2 個人用の防護具不足に対して、デザイナーや組織が早く動いたこと
No.1 チームワークが素晴らしかったこと
うまくいった一番の理由はマレーシア人の「チームワーク」にあるとしています。
この動画を最後まで見ると、「ヒーロー」が、ごく一般の人々であるのがわかります。コメント欄も、他の国の人たちからの称賛の声と、自国を誇りに思うマレーシア人の声が多いです。
「公正かつ正確な評価です。私たちは人種、言語、宗教が異なります。パンデミックでは、すべてのマレーシア人が違いを一旦忘れ、団結しました」
「私の国はこんな小さな国だけど、誇りに思います。政府は本当に良い仕事をしました」
「私たちマレーシア人は違いを尊重するために洗脳されてます。だから、政治問題は深刻な問題ではありません。私たちはただクールで穏やかなのです」
他の国に対して「どうだ」と威張る声も少ないです。
もちろん、マレーシアだって完璧じゃありません。しかし、危機の一番ひどいときには、それまでの対立や揉め事や政治問題はいったん棚上げされ、人々は協力する道を選びました。また、前線で物を届けてくれるGrabのドライバーや医療機関の人に感謝している人が大勢います。ドライバーは副業でやっている人が多いです。Grabにはチップを渡す機能が付いていますから、多めに払っている人もたくさんいるはず。
どんな人でも活躍していて、尊敬されるという社会のこういうムード、大事だと思います。