政府の財政難を解決するのは喫緊の課題」 |百折不撓(十二) 1

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚!
早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は
どのような人物だったのか?
幕末の佐賀藩に生まれ、
明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切り拓いた男の思想と生涯とは。
青年期から最晩年まで、
「走る人」「闘う人」「創る人」「聞く人」として駆け抜けた、
令和版大隈像をお楽しみください。

十二


「それにしても、でかい屋敷ですね」

 門まで来た久米が口をあんぐりと開ける。

「元は三千石の旗本屋敷だ。五千坪はある。まあ、旗本だし、これくらいあっても、ばちは当たらないだろう」

「ばちが当たったから、追い出されたんじゃないんですか」

「ああ、そうか」

 大隈が頭に手をやって大笑いする。

 恐る恐る門をくぐった久米が、庭を見渡す。

「さすがに庭は雑草だらけだ」

「ああ、そこまでは手も回らんし、金も回らん」

「国家の財政を司る会計官副知事様でも、金はありませんか」

「わしが扱っているのは国家の金で、わしの金ではない。この家の改修費も相当かかった上、飲食費が馬鹿にならん。それゆえ商人に借金をせねばならなくなった」

「えっ、どうしてですか。だってこの家には大隈さんとご令室しか住んでいないんでしょう」

「誰でも、そう思うよな」

「もちろんです」

 大隈が苦笑いを漏らしながら言う。

「家の中に入れば、その理由が分かる」

 久米が玄関口で「お邪魔します」と言うと、奥から綾子が出てきた。

 久米と綾子は初対面なので、通り一遍の挨拶を交わす。

 綾子は丁寧にお辞儀をすると、「お酒の支度をします」と言って奥に引っ込んだ。

「さすが大隈さんだ」と呟きながら、久米が慣れない手つきで靴紐を解いている。

「何が、さすがなのだ」

「綾子さんは見目美しいだけでなく、気が利いていそうだ」

 久米がにやりとする。

「ああ、わしなどの許に、よくぞ嫁に来てくれたもんだ」

「新しい嫁さんには来てもらい、由利さんは追い出せて、万々歳ですね」

「おい、聞き捨てならないことを言うな。別に会計掛から由利さんを追い出したわけではない。『どうするのか』と問うても答を持っておらんから、その代わりに答を作ってやった。由利さんはそれを読み、黙って会計掛の執務所を後にし、二度と戻ってこなかったのだ」

 久米が呆れたように首を左右に振った。

「やはり大隈さんは酷い」

 久米の言葉に大隈が反論する。

「何が酷いものか。明治政府が諸外国の食い物にされずに一本立ちするまで、誰かの立場を慮ったり、上の意思を忖度したりしている暇はない」

「それは尤もですが、人には誇りというものがあります」

「知ったことか」とうそぶくと、逆に大隈が問うた。

「わしの方より、そっちの方はどうだ」

 長い廊下を歩きながら、大隈が問う。

「ご隠居様のお体は思わしくないですね」

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威風堂々 幕末佐賀風雲録

伊東潤

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚! 早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は どのような人物だったのか? 幕末の佐賀藩に生まれ、 明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への...もっと読む

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