日本の「幸福度ランキング」が低い根本的な理由

人生100年時代が到来し、75歳頃まで一生懸命に働くだろう私たちに、 いま必要な「戦略」はなんなのか?予防医学・行動科学・計算創造学からビジネス・事業開発まで、縦横無尽に駆け巡る、 石川善樹さんの集大成!今日の仕事と、10年先の目標と、100年の人生をつなぐ戦略書『フルライフ』の発売に先駆け、特別先行掲載します。

5章 真のWell-Beingとは「自分らしさ」の先にある

〉〉〉A .フルライフとは、Well-DoingとWell-Beingのバランスにある

 そのような話を本書の冒頭でしました。おそらく「Well-Doing」については、「仕事をよくやることなんだろうな」と直観的に理解されたと思います。しかし「Well-Being」という概念は聞きなれず、もしかしたら戸惑ったままここまで来られたかもしれません。

 そこで本章では、「真のWell-Beingとは何か」についてくわしく述べていきます。というのも、まさにそれこそが私の研究分野であり、現時点でハードワークしている分野だからです。

 ここで改めて少しだけ自己紹介をさせてください。私は被爆3世として広島県で生まれました。両祖父母とも奇跡的に原爆を生き抜いた経験から、ちいさい頃より「ご奉仕をして世界平和に貢献すること」の大切さを繰り返し教えられ育ちました。

 しかし、世界平和はあまりに大きいテーマなので、どのようなご奉仕をすれば貢献できるのか長いこと悩んできたのも事実です。これからも(50歳まで)悩み続けることでしょう。ただ、何事も始めてみないと前に進んでいかないので、現時点で私は自分のハードワークを次のように設定しています。

 「Well-Being研究を推進し、世界平和に貢献する」

 まずはなぜ私がWell-Beingに注目するようになったのか、背景からお話ししていきたいと思います。

人類は進化してどのぐらい幸せになったのか?

 科学の基本は「測定」です。測定することでデータ(Data)を取得し、そこからナレッジ(知識)を取り出し、政策や技術などのイノベーション(革新)につなげていく。

Q.科学はどのように前進するのか?

〉〉〉A. データ→ ナレッジ →イノベーションの流れで科学は前進する

 この流れを加速させることで人類は進化してきました。私の専門分野である予防医学(preventive medicine)では、長らく「寿命」というデータに着目し測定してきました。例えば1800年、人類全体の平均寿命は29歳程度でした。その理由は、乳幼児がたくさん亡くなっていたことに起因します。

 平均寿命が短かった時代にも、長生きする人はたくさんいました。なぜ短命な人とそうでない人がいるのか。データを解析する中で、健康長寿に資するさまざまな知識が取り出され、健康政策や医療技術のイノベーションへとつながっていきました。

 その結果何が起きたでしょう? 驚くべきことに、人類全体の平均寿命はなんと72歳まで延伸したのです。次の世紀をまたぐ頃には、82歳にまで到達すると推測されています。

 このような話を聞くと、おそらくみなさんの中で次のような疑問が湧き上がることでしょう。

Q.それで人類は幸せになったのか?

 長寿社会の実現は、見果てぬ人類の夢でした。しかし、いざそのような社会が到来すると、「ただ単に長生きしてもしょうがない」とか、「人様のお世話になってまで生きたくない」などさまざまな意見が出てくるようになります。

 あえて単純化すれば、人類の関心が「命の長さ」から、よく生きるとは何かといった「命の質」にシフトしたのです。その動きに呼応するように、予防医学は「平均寿命」だけでなく「健康寿命(自立して元気でいられる期間)」、さらには「幸せ度や満足度(Well-Being)」のデータ測定を始めるようになりました。

 おっ、Well-Beingという言葉が出てきましたね。そう、この一語は予防医学の研究分野の一つとして、21世紀に入ってから熱い注目を集めているのです。

 ここで、世界の研究者を驚かせた日本のデータをご紹介します。2002年、Well-Being研究の創始者であるディーナー博士らは、1958年〜1987年にかけて日本人の生活満足度がどのように推移したかを発表しました。左の「一人あたりのGDP」と「生活満足度」の図です。これによると、日本人の生活満足度は戦後30年間、ピクリとも向上していなかったのです。私自身もこの結果を見て、「いったい人類の進化とはなんなのか?」と大いなる熟慮を迫られました。

 改めて振り返るまでもなく、これまで人類は「平均寿命」や「ひとり当たりGDP」などのデータを重視し、その改善を目指してきました。その先には幸せな社会が待っていると信じてきたからです。しかし、現実はどうか?

 たしかに寿命は延びたし、経済的に豊かになり、生活も便利になりました。それだけの進化があったにもかかわらず、「実感としての豊かさ」を感じられていないのが偽らざる現状です。

 これまでの努力が無駄であったわけではありません。言うまでもなく、「病気・貧困・戦争」は長らく人類を苦しめてきた3大苦であり、それらを大きく克服した20世紀は後の歴史家から「黄金の世紀」として称賛されることでしょう。

 しかし、苦しみを取り除きさえすれば、人々が人生に対して「意味・目的・満足」を感じられるわけではない。そのような現象がWell-Beingデータを取り始めたことでわかってきました。すなわち、マイナスを減らすということと、プラスを増やしていくことは、異なる営みである可能性が高いのです。

 いま国際社会では持続可能な社会の実現に向けてSDGsが推進されています。一方で、SDGsは主としてマイナスを減らすことが意図されており、ここまで議論してきたような「命の質(Well-Being)」に関する観点が抜け落ちています。

 だからこそ2025年に開催される大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを銘打ち、国際社会に対してSDGs達成はもちろんのこと、2030年で一区切りを迎えるSDGsのその先にどのような議論を行うべきか、「いのち輝く」というキーワードに想いを込めて発信しようとしているわけです。

Well-Beingは体験と評価で測られる

 「国連の幸福度ランキングで、日本は58位だった」

 そんなニュースが毎年3月末になると流れてきます。なぜなら3月20日が「国際幸福デー」と設定され、国連はその時期に合わせて「世界幸福度報告(WorldHappiness Report)」なるレポートを2012年から毎年発行しているからです(わかりやすい一般用語として〝幸福〞が使われていますが、実際は〝Well-Being〞に関するレポートです)。

 この手のニュースを目にすると「やはり日本は低いのか……」と暗澹たる気持ちにさせられますが、少し待ってください。そもそも一体どこの誰が「日本人の幸福度」を測定しているのでしょうか? さらにその「幸福」とやらはいつの間に定義されていたのでしょうか?

 私たちが注目すべきはランキングではなく、Well-Being≒幸福の定義です。もしその定義が日本人にとって納得のいくものでなければ、ランキングは何の価値も持ちません。

 結論から述べましょう。私の研究仲間でもあり、先の幸福度調査を設計したジム・ハーター氏( ギャラップ社、Chief Scientist of Workplace Management and Well-Being)は次のように述べています。

 「Well-Beingの調査項目では、〝体験〞と〝評価〞の2つを尋ねています(図参照)。体験は5つのポジティブ体験と5つのネガティブ体験を調査前日に経験したかどうか、評価は自分の人生を10段階で判断してもらっています」

 といわれても、いったいなぜWell-Beingがこのように測定されているのか疑問に思うでしょう。

 それを理解するためにも、ここからはざっとWell-Being研究の歴史を振り返ることにします。

幸せなのは「どのような人たち」か?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ハードな仕事と、長い人生の"重心"はどこにあるのか?

この連載について

初回を読む
フルライフ──今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略

石川善樹

人生100年時代が到来し、75歳頃まで一生懸命に働くだろう私たちに、 いま必要な「戦略」はなんなのか? 予防医学・行動科学・計算創造学からビジネス・事業開発まで、縦横無尽に駆け巡る、 石川善樹さんの集大成!  今日の仕事と、10年先...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

sanukimichiru https://t.co/ztMoGerDxp   well-being 幸福感 主観的幸福感 満足度 何が人間をして「これでいい」と思わせるのか   公衆衛生 思考と生活   などなど考える 無料はここまでなのであとは自分で調べましょう (ケイクス連載・有料) 6ヶ月前 replyretweetfavorite