私のキャロラインへ
おまえもこの話を読みたくはないだろうが、それ以上に僕も書きたくない。これは僕たちのことだ。名前を変え、日付を変えているが……僕たちのことなのだ。おまえはずっと僕の唯一の詩神だった。僕は描いたり彫ったりはできない。おまえの姿を表現するための言葉しか持たない。ときどき、自分が神であり、アダムであればいいと思う。そうすれば自分のあばらを取って、自分の肉体からおまえを創ることができるからだ。自分の心からおまえを創る、と言いたいところだが、心はおまえが去ったときにおまえに与えてしまった。だがそれは陳腐だな。悲しいことに、このところ僕にはそんな常套句しか浮かばない。物語すべてが陳腐なのだ。僕はおまえを望み、おまえを食べ、おまえを失った。あの古代の物語——“楽園”より古く、“蛇”並みに古い。僕は、この僕たちの物語を“誘惑”と呼びたかったが、かつて敬虔な神学者のものだった“誘惑”という言葉は、いまや三流ロマンス小説家に好き勝手に使われている。そして、僕はおまえを愛していたが、わが美しき女よ、これはロマンス小説ではない。
「どう、ザック、気に入った?」
ザックはまばたきをした。ノーラの新しい言葉にすっかり没頭していた。
「かなりの進歩だな」
「進歩? やだ、ココアのことを言ったのよ」
ザックはノーラの家の明るいキッチンに座っていた。冬の日差しがすべてを白に染めている。第一章の新しい草稿がザックの前に置かれ、ココアのカップが湯気を立てていた。
ザックはココアを口に運び、祖母の家のキッチンにいる子どものような気分になった。
「とてもうまい」
ザックは言い、あたたかな湯気を吸いこんだ。
「こっちも」
ザックは前に置かれた原稿をとんとんと叩いた。ノーラは彼のアドバイスを受け入れ、作品の骨組みとなるストーリーを作った。話し手のウィリアムが、愛して失った女性キャロラインに宛てて書いた手紙だ。すでにみごとに動いている——作品も、ノーラとのパートナーシップも。
「“これはロマンス小説ではない”」
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