第9回】2人の編集作業

ノーラの自宅で初めて膝を突き合わせての編集作業に入った2人。冴えた表現に満ち満ちた文章を目にしてたザックは、厳しい修正を入れながらも、やはりノーラには才能があるとかなりの手応えを感じます。大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社の刺激的な新レーベル”エロティカ”より、9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部をお届けします。

私のキャロラインへ
おまえもこの話を読みたくはないだろうが、それ以上に僕も書きたくない。これは僕たちのことだ。名前を変え、日付を変えているが……僕たちのことなのだ。おまえはずっと僕の唯一の詩神だった。僕は描いたり彫ったりはできない。おまえの姿を表現するための言葉しか持たない。ときどき、自分が神であり、アダムであればいいと思う。そうすれば自分のあばらを取って、自分の肉体からおまえを創ることができるからだ。自分の心からおまえを創る、と言いたいところだが、心はおまえが去ったときにおまえに与えてしまった。だがそれは陳腐だな。悲しいことに、このところ僕にはそんな常套句しか浮かばない。物語すべてが陳腐なのだ。僕はおまえを望み、おまえを食べ、おまえを失った。あの古代の物語—“楽園”より古く、“蛇”並みに古い。僕は、この僕たちの物語を“誘惑”と呼びたかったが、かつて敬虔な神学者のものだった“誘惑”という言葉は、いまや三流ロマンス小説家に好き勝手に使われている。そして、僕はおまえを愛していたが、わが美しき女よ、これはロマンス小説ではない。

「どう、ザック、気に入った?」

 ザックはまばたきをした。ノーラの新しい言葉にすっかり没頭していた。

「かなりの進歩だな」

「進歩? やだ、ココアのことを言ったのよ」

 ザックはノーラの家の明るいキッチンに座っていた。冬の日差しがすべてを白に染めている。第一章の新しい草稿がザックの前に置かれ、ココアのカップが湯気を立てていた。
 ザックはココアを口に運び、祖母の家のキッチンにいる子どものような気分になった。

「とてもうまい」

 ザックは言い、あたたかな湯気を吸いこんだ。

「こっちも」

 ザックは前に置かれた原稿をとんとんと叩いた。ノーラは彼のアドバイスを受け入れ、作品の骨組みとなるストーリーを作った。話し手のウィリアムが、愛して失った女性キャロラインに宛てて書いた手紙だ。すでにみごとに動いている—作品も、ノーラとのパートナーシップも。

「“これはロマンス小説ではない”」

 ザックは新しい第一章から一部を読んだ。

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セイレーンの涙—見えない愛につながれて

ティファニー・ライス

大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社から、刺激的な新レーベル“エロティカ”が初めて刊行されました。これを記念してcakesでも、“エロティカ”から9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部...もっと読む

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