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七時に電話が鳴り、その通話自体はほんの二、三言で終わった。彼女の“もしもし”のあと、彼は“九時にクラブで。目隠しをして待て”と言った。
彼女は震える手で電話を切り、シャワーを浴びに行った。到着したのは八時四十六分。たいていの場面では習慣的に五分遅刻するが、彼を待たせてはならないことは痛い経験から学んでいた。
彼はクラブに自分の部屋を持っていた。自室を持つ限られた七人のうちのひとりだ。そして彼女はその部屋の鍵を持っていた。その鍵を持つふたりのうちのひとりだ。彼の部屋はがらんとしていて、その唯一の用途を考えれば妙にエレガントだった。床置きの三台の燭台を除き、装飾は質素だ。ベッドは高級感ある白と黒のリネンで覆われている。汚されるのを待つばかりの白いシーツ。
彼女は衣服をすべて脱ぎ、黒いシルクのスカーフを手に取った。ドアに背を向けてベッドの上で膝をつき、目を閉じて、その布を頭に巻く。こうやって彼のために自分の視界を犠牲にするのはいやだった。怖いからではなく、むしろ欲張りだからだ。彼の姿が見たい。彼が私を傷つけるところを見たい。私がそうしたいと思っていることを彼は知っている。だからしょっちゅう目隠しを命じるのだ。
彼女は待った。
彼の到着を待つあいだに、以前彼に教わった、深くゆっくりとした呼吸を始めた。鼻から空気を吸いこみ、体内にたっぷり引き入れて、口から吐く。その呼吸は単なるリラックスのためだけではない。眠気を催す呼吸にいざなわれて、彼女は小さな区画にするりと入りこんだ。そこは、肉体がほかのどこかで責苦を受けているあいだ、意識が向かう安全な場所だ。