出しまくった。ただそれだけなのに。

「モテる文体とはなにか?」を徹底的に分析する連載です。今回は、有川浩さんの「何歳でも共感できる文章」について解説します。書評ライター・三宅香帆さんの著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』から特別収録。





有川浩の共感力


あーわかる! うちもそうだった、なつかしい! 




個人的な話で恐縮ですが、私はこの文章をよく覚えています。 なぜなら新聞に掲載されたこのエッセイを、父が丁寧に切り抜いて、冷蔵庫に貼っていたからです。

父はこのエッセイを読むたびに「バナナってほんと、こういうことあるよなあ、作家さんって面白いこと書くもんだよなあ」と私に聞こえるようにつぶやき、有川浩先生のファンである私は、なにを今さらそんな当たり前のことを…と無視を決め込んでいました。

でも「そんな当たり前のこと」ができる、作家さんの文章はやっぱりすごい。
生まれも育ちも年代も違う父に、共感させてしまうのですから。

家族や友だちとお喋りしていて、「ああ〜、あるある! そういうことある!」と共感してもらった経験は誰にでもあると思います。
だけど、自分の書いた文章で“まったく知らない読み手に共感してもらう”のは、そう簡単にはいきません。

中でも「個人的な思い出」という題材は、難易度が高いです。
共感してもらうというよりも、その裏には(あなたとは違ってるでしょ、うちは変わってるでしょ)という気持ちが隠れているからです。単純に読み手に「面白い」とは思ってもらえるかもしれませんが、「共感」というところまではなかなか届きません。

しかし、プロはまったく違いますね。

〈母は出したバナナのアイスキャンデーをうっかり褒めたばかりに、気をよくした母はバナナのアイスキャンディーを二ヶ月出し続けた〉

要約してしまえばただこれだけの文章が、どうして生まれも育ちも年代も超えて、こんなにも激しく共感できるのでしょうか。

ポイントはここにあると思います。
エピソードを紹介した後、ぽんと挿入されたこのぼやき。

〈何で「お母さん」という生き物は、こういうときやり過ぎるのか。〉

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文芸オタク女子の バズる文章教室

三宅香帆

こんな書き方もありだったのか! 文芸オタク女子が暴露する、「モテる文章の秘密」がいっぱい。文章を書くという行為が、今よりもっと面白くなるはずです。

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NiroNiroNirou 経験に「みんな」シグナルをつければ雑談になる →本質を捉えて一般化することで納得感のある共感になる 具)あるある失敗談 https://t.co/kQRqnzqf3t 5ヶ月前 replyretweetfavorite