第4話】作家はパーティーで課題を提出する

ある発刊記念パーティーに出向いたザック。楽しめずに会場内をうろうろしていたところへ階段の上から声をかけてきたのは、今朝顔合わせをしたばかりのノーラでした。なぜここに? さっき課題を出したばかりだというのに……。大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社の刺激的な新レーベル”エロティカ”より、9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部をお届けします。

 ザックは編集者として、しばしば作家に、深く掘り下げること、明らかなものを打ち捨てること、あらゆる文に完璧な言葉を見つけることを強いる。そして、出席を強いられたこの発刊記念パーティーを表現する完璧な言葉は? “無関心”だ。

 ときおり同僚たちに挨拶する以外、口をきかずにパーティー会場の中を歩きまわった。この場に来たのは、またもやJ・Pに圧力をかけられたからだ。主賓のローズ・イーヴリーはロイヤル社の作家となって三十周年を迎えたという。しかし、なんとばかばかしいパーティーだろう—明かりを落としてナイトクラブのような雰囲気を醸し出そうとしているが、ありふれたホテルの宴会場は依然として無味乾燥な箱にすぎない。ザックはホールの隅にある螺旋階段のほうへ移動し、こっそり腕時計をチェックした。二時間も我慢すれば、社交好きのボスも文句を言わないだろう。

 人混みに目を走らせると、ザックのアシスタントである二十八歳のメアリーが、新婚の夫をしきりにダンスに誘っているのが見えた。ロイヤル社に来て最初の週、ザックはかんしゃく持ちのアシスタントが、自分と同じユダヤ人だと知って喜んだ。J・Pはローズ・イーヴリーと一緒に立っている。ふたりともそれぞれの連れ合いと何十年も幸せな結婚生活を送っているが、J・Pは、文学についてのとりとめのない話を聞いてくれる忍耐強い女性には、礼儀正しく粉をかけるのを忘れない。この悲惨なパーティーを誰もが楽しんでいるように見える。なぜ僕は楽しめないのか。

 ザックはもう一度腕時計を見下ろした。

「救い出してあげましょうか。よかったら」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
セイレーンの涙—見えない愛につながれて

ティファニー・ライス

大人の女性に極上の恋愛を届け続けるハーレクイン社から、刺激的な新レーベル“エロティカ”が初めて刊行されました。これを記念してcakesでも、“エロティカ”から9月15日に発売された小説『セイレーンの涙――見えない愛につながれて』の一部...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません