「思いきって、感染してみたくなりました」
先日、スカイプでこんな相談を受けた。相手は友人の友人である。仮にN美としておくが、私の友人によるとN美は元来エキセントリックというか感情の起伏が激しく、不定期だが心療内科に通っていた。軽い双極性障害(躁鬱病)だと聞く。友人は、度々N美の相談に乗っていたが、終わりの見えない自粛性活で正常の人も軽い欝病になりそうな昨今である。私に助けを求めてきたのだ。
よくよく聞いてみたら……
「思いきって感染って、コロナだよね」
と、一応私は問うてみた。
「そうなのよ」
ため息まじりに友人がこたえる。N美は、一度コロナウイルスに感染してしまえば、もう二度とならない、とでも思っているのだろうか。連日流れるニュースを見れば、そんなうまい具合にいくはずないと知っているはずだ。とりあえず私は友人に確認してみたのだが、事情はそう単純ではなかった。
「感染したら、本当に大事な人が誰なのか判明する、って言うの」
なるほど、N美はウイルスと自分とを天秤にかけてみたいのだ。美人の部類に入るN美には、付き合っている人が複数いた。タイプも年齢もバラバラで、もちろん既婚者もいれば彼女持ちもいる。そういった足元のおぼつかない関係性にN美が疲れたのかどうか不明だが、抜き差しならない状況になった時にも離れない人は誰なのか、知りたくなったのだという。
個人的に、そういったギャンブルは薦めないし、好きではない。相手を試すような行為は失礼にあたる。そもそも完治する保証がないのに、自分の身体を賭けるなどもってのほかだ。
ただ、数日前にワイドショーで「コロナに感染したから婚約破棄された」という報道があったので、私にもN美の気持ちはわからないでもなかった。大変な状況にならないと、人の本性などわからないのだ。そして、大変な状況になった時に後悔してみても、もう遅い。そのコロナ離婚ならぬコロナ婚約破棄の話を友人に伝えて、とりあえずスカイプを切った。すると友人もコロナ婚約破棄の話をN美に吹聴したらしく、数日後にまた友人から連絡があった。
「コロナ婚約破棄の話、N美はいたく感動していたのよ」
とスカイプ画面から飛沫が飛んできそうな勢いで、友人がまくしたてる。感動する話か? 私は教訓として言ったつもりなのだけれど、と思いつつ、友人に合槌をうつ。
「そのくらい潔い人じゃなきゃ、付き合った意味がないんですって」
付き合った意味がない、とは、過去形である。つまり、N美は男達と別れたがっているのか? いったいどういうことなのだろう。
「美人しか似合わないようなセリフだね」
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