真面目にやってきたのに、普通の人生から取り残されてる#36

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する橘みつさん。ある時、お客さんとしてやって来た彩香さんは、年齢のわりに恋愛経験がないのが恥ずかしいとみつさんに打ち明けます。話の中で見えてきたのは彼女の自己肯定感の低さと、性的な事柄から遠ざけて育てられたことでした。

「……こういうお店って、なんか、どういう感じで来るお客さんが多いんですか?」

彼女が言葉のうちに聞きたかったことは、多分これだろう。私みたいな人は他にいるのかな。

わたしは騒がしい街並みに目をやりながら言った。「いろんな人がいるけど、自分の中でモヤモヤしていて感情の整理がつかないから、ただ誰かに話を聞いてほしいって人は多いかな。こんな自分を変えたいって思って、思い切って飛び込んで来てくれるとか」

それを聞くと、横を歩く彼女の胸のあたりがふっと緩んだ気がした。心なしか、会話も饒舌になる。「そうなんだ……私みたいな人、全然いないのかと思ってた」

わたしは静かに首を振った。貴方みたいに、苦しみを一人で抱えてしまっている人はいるよ。また会いにきてくれたね。

ホテルの部屋に入ると、すでに部屋の中はクーラーが効いて涼しくなっていた。ラブホテルの密集するエリアに立地しているせいか、この部屋には日中も光が届かないのかもしれない。おかげで歩いて体温が上がった体がすっと楽になる。暑さから解放されて涼しいと喜ぶ彼女にはくつろいでもらって、すぐに準備を始める。お風呂は熱くない温度で入れ始め、カバンは見える場所に置いておく。この部屋にはソファがなくて対面式の簡素なテーブルと椅子しかない。「ねえ、隣に座って話してもいいかな」と言いながら、椅子を彼女の隣に置いた。

わたしは椅子に少しだけ体重をかけて、上を見上げて言う。

「なんかここ、ビルの隙間と隙間に挟まれた場所にあるから、涼しくて居心地がいいね」

「あ、よかったー。ラブホテルどこがいいか結構探して、ここ綺麗でいいかなって」

「探してくれたんだ」

彼女はコクリとうなずいて、あんまりこういうところよく知らないからとポツリと言った。

「こういうところにはあまり来ない?」とわたしが聞くと、彼女は迷い迷い言った。

「みつさん、ごめんなさい。わたし、あまり経験がなくて」

「ううん、そんなの謝らなくていいよ。でも、気になってるの?」

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レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話

橘みつ

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する著者は、なぜ、レズ風俗で働くのでしょうか? お客さんの「人生のきっかけ」を共に探したいと願い、これまで200人以上に向き合ってきた彼女が、どんな人生をおくり、い...もっと読む

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