「矛盾していることはわかっています。お金を払って来てくれるお客さんに助けてもらおうだなんて思いません。自分の悩みは自分の悩みとして、考えて対処していきます。自分の問題と相手の問題の切り分けは、私が身につけて来たスキルの一つです。そこは混同しません。でも私が自分の自信のなさについてずっと考えて得てきたことは、お客さんに情報として提供しようと思います。同じような悩みを持っている人の力になりたいんです」だから、どうかお願いしますと彼女は勢いよく頭を下げた。わたしはそんな彼女の様子を見つめながら言った。「それでも、もしうちに来るとしたら色々と悩むことになると思う。それでもいいですか」
彼女は顔を伏せたまま言った。「それも覚悟してます。この仕事にかけてみたいんです」
「わかりました、あなたを採用します」
彼女はさっと頭をあげた。
「わたしはあなたを歓迎します。自分の中に課題がある場合、お客さんに向き合うことは容易ではないと思う。それでも、あなたはその取り扱い方をよく知っていると思いますし、何より人の役に立ちたいという熱意を感じました。自分のことだけではなくて、他人のことが第一にあってちゃんと見えている。あなたが持っているスキルは、リリーヴが必要としているものだと感じます。わたしと一緒に、このお店を作っていってくれませんか」
わたしが差し出した手を、彼女はしっかりと何度も握り返してくれた。こうしてお店の三番目のキャスト、れいが誕生したのだった。
実際にれいがお店でキャストとして働くようになると、すぐに自分の目は正しかったと確信した。彼女は顔出しをしていないから、ヴィジュアルや世界観で売ってるふみよや、オーナーとしてキャラクターをはっきりさせているわたしとは異なる。パッと人目を引くタイプではないかもしれない。それでも、年上の女性に話を聞いてほしいお客さんや、落ち着いて話をしたい人からは、じわじわと支持されていった。彼女の専門職としての力も発揮されているようで、自己肯定感に問題を抱えているお客さんが、安心して話を聞いてもらえる場所として機能しているようだ。派手なスタートダッシュではないかもしれないが、このままの勢いで続けて行けば、うちのお店の力強いキャストになれるだろう。
二度目の面談のときに、彼女にはそう伝えた。場所は採用のときと同じく新宿の純喫茶の3階。昼下がりの雑然としたフロアで、彼女は喜んでくれるかと思いきや下を向いている。
「お仕事そのものは、思った通りすごく楽しいですし、私だからこその貢献ができてると思います。それでも、時々苦しくなってしまうのかな……」