自分の感情や欲求に向き合うことは、きっと甘いことでも楽なことでもない。時には手痛い結果を得たり、人生の大きな変革を迫られたりすることだってある。わたしたちキャストは誰の人生もジャッジしない。何が正解だったのか、考えてしまうことはあるけれど。それでも、今日もわたしたちは、それぞれの物語と問題を抱えた人たちに寄り添い続ける。何が正解かを教えるためじゃなくて、一緒に考えるために。
ふみよとのリリーヴでの二人三脚も板についたころ、HPに1件の問い合わせが来た。それは三人目のキャスト、れいからの入店希望メールだった。
7 そして東京の片隅で、すべては続いていく
「あなたみたいに人と向き合うことを専門でやっている方に今回応募してもらえて、すごく嬉しい」とわたしが言うと、彼女はじっとこちらの目をみたあと丁寧に頭を下げた。彼女がこの先、なんと答えてくれるのだろう。期待に胸を膨らませつつ、わたしは自分の名前を名乗った。
ここは新宿にある純喫茶の3階。面接をするために、わたしは入店希望者をここに呼び寄せたのだ。面接の場に現れた彼女は、クリーム色のシャツにジャージ素材のジャケット、下はタイトな黒のスカートとしっかりとした出で立ち。染められていない黒髪を肩まで伸ばし、その顔にはほんの少しだけメイクをほどこしている。応募時の年齢は40代。さりげなく確認した彼女の指先は爪も伸びすぎておらず、汚れもなかった。最低限の清潔感はクリア。わたしは手元にある応募時の履歴書にもう一度目を落とす。
「志望理由を事前にしっかり書いてくれて、ありがとうございます。うちで働いてもらうに当たって、まずはわたしのお店の話をさせてください。うちで働いてもらうには、色々な条件があります。それを踏まえて、貴方の方でもうちで本当に働きたいと思うか、判断してほしいです」
わたしはいつもの通りリリーヴで働く上で知っておいて欲しいことを伝えた。レズ風俗1本では稼げないこと、きめ細やかな対話が必要な仕事だということ。そして、お金以外にここで働くことで得られるものがあるのかどうか。