チカさんはわたしが独立してから、リリーヴにも一度来てくれた。前回会ったとき大きな荷物を抱えてやって来て、晴れやかな顔で帰って行ったのを覚えている。
あるとき、彼女からメールで予約指名が入った。急な話だが、明日の14時に予約を入れたいという。が、少し様子がおかしい。いつもなら新宿駅で待ち合わせて一緒に近くのラブホテルに行くのがお決まりだったのに、今回は新宿のシティホテルの部屋で待ち合わせしたいという。
「大変申し訳ないのですが、防犯上の観点からお客様が待機されている部屋での待ち合わせは禁止とさせていただいています」とわたしはメールで伝えた。キャストがお客さんのいる部屋に派遣される場合、危険がつきまとうからだ。部屋に他に誰か控えていて危害を加えられるかもしれないし、隠し撮りをされている可能性もある。久住の店では許容していたが、わたしの店ではキャストの身の安全を確保するためにも、そういった要望は原則断っている。そう伝えるとチカさんは納得してくれた。「わかりました。でもその日は日帰りじゃなくて、ホテルに泊まるんです。新宿駅で待ち合わせして、一緒にチェックインする形にできませんか」
当日、新宿駅の待ち合わせの場所に向かうとすぐに彼女の姿を見つけた。以前と変わらない明るい茶髪のショートカット。しかし、チカさんの顔は大きなサングラスとマスクで隠れていた。お久しぶりですね、と言って笑いかけてもチカさんの反応は薄い。
「今回の上京はいつもより急ですね。どうかしたの?」
「どうしても、みつさんに会いたくなって……」チカさんは言葉少なで、先が続かない。ホテルの部屋までは無言で連れ添って歩いた。宿泊するホテルの手狭な部屋に入ると、チカさんはベッドに腰掛けてサングラスとマスクを外す。すると、そのまぶたは真っ赤に腫れ、顔のところどころは黒ずんで口元は切れていた。目だけは冴え冴えとこちらを見ている。