愛されて選ばれる私」を選ばない#27

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する橘みつさん。現役大学生の麻里奈さんは周りに合わせるために行った合コンで、セクハラ被害を受けたことをみつさんに打ち明けました。愛されるために、男性に合わせなくてはならないのかと麻里奈さんは悩みます。

前に座る麻里奈さんの肩に優しく触れながら、これまで会ってきた何人ものお客さんのことを思い出す。恋愛経験の有る無しに関わらず、女性たちの多くは同性とのおしゃべりや想像の中では、もっと主体的だ。もしあの人と付き合ったら、こんな風だったらどうする?恋愛の主導権は彼女たち自身が握っている。でも、その権利はひとたび社会の場に出れば手放さなくてはならなくなる。なぜなら彼女たちは「素敵な人に見初められ、選ばれるわたし」こそが確実な幸せをもたらすと、知らずにすり込まれているから。

麻里奈さんはひとりごちる。「こんな歳になっても彼氏もいないしオシャレじゃないし経験もない、そういう自分が恥ずかしくて、変えたかった。でもモテるためには、男の人のああいうのに付いていって、一緒に乗れないといけない。私にはできない、だったらどうすればいいのかわからなくて……週末、居ても立ってもいられなくなってしまって、思い立ってここに来てしまったんです、ごめんなさい」

わたしは後ろから腕を伸ばして、震える麻里奈さんを抱きとめた。拘束するためではなくて、麻里奈さんがいられる小さなスペースを作るために。よく頑張ったね、というと麻里奈さんの黒い瞳からコロリと涙がこぼれて、それを皮切りに止めどなく感情が流れてお湯の中に吸い込まれていく。体は柔らかい檻で、自分一人で閉じこもることもできれば、その腕の中に誰かを迎え入れることもできる。わたしはそれを、やすやすと、何でもないことのように差し出した。

ひとしきり感情を流しきったあと彼女は言った。「みつさん、私、どうしたらいいんだろう。どうしたら普通になれるかなあ。今の自分をどこからどう変えればいいのかわからなくて」。みつさんみたいな人にはわからないことかもしれないけど、と彼女は最後に小さく付け足す。わたしは首を振って、遠くを見ながら言った。「わたしにも、麻里奈さんみたいに感じて焦っている時期あったよ。みんなの普通に、当たり前の中に入れない、自分だけ外れてしまっているってときが」

「うそ! だってみつさん、綺麗だし頭だっていいし、すっごくしっかりしてるのに」

「ありがとう。でも、うまくいかなくてもがいていたときもあった」

「そう、なんだ……」

わたしは腕の中にいる麻里奈さんと真正面から目を合わせた。「麻里奈さんは、これからどんな自分になりたい?」「え……」「どこが足りてないとかより、どういう自分なら好きになれそうかな」麻里奈さんは、そんなこと考えたことなかったという顔をしたあと、ポツリと口にした。「自分に自信があって、できれば、普通に誰かと出会って付き合いたいかな」

「どうやったらそうなれそう?」

「うーん、もうちょっとオシャレになって、男の人と話しても物怖じしないようにする。洋服とかもう少し、気をつけてみようかな……」

「ふむ、なるほどね」

わたしは両手で麻里奈さんの頬を挟み込んだ。「せっかく来てくれたわけだけど、どこまでしてみる?」と聞くと、麻里奈さんは真っ赤に充血した瞳でこちらを見上げた。

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レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話

橘みつ

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する著者は、なぜ、レズ風俗で働くのでしょうか? お客さんの「人生のきっかけ」を共に探したいと願い、これまで200人以上に向き合ってきた彼女が、どんな人生をおくり、い...もっと読む

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