異なる分野を大局観で行き来する
やりたいことというのは、白馬の王子さまのように待っていれば向こうから来てくれるものではありません。ではどうすればいいのか。本書でこれまで述べたように、50歳までは力を蓄えるための修行の期間と思って、「AandB」で、なるべくいろいろなことを試すしかないでしょう。
ちなみに学問の世界では、50歳までに5つくらいの分野を渡り歩くことが求められる時代になっています。1つや2つでは弱い。5個くらい併せ持つことで、ようやくこれこそが自分のオリジナルだと言えるものが見えてくる。おそらくこれは、ビジネスの世界でも同じなのではないか。そのためには、最低でも3、4回は転職する必要があるということになるでしょう。
では、どんなところに転職すればいいのか。一つの考え方として、次の図が参考になるかもしれません。
ヨコ軸に分野、タテ軸にスキルをとった時に、分野もスキルも同じところで何回転職しても意味がありません。最終的にはスキルも分野も違うD社の領域をどれだけ味わえるかが、自分の幅を広げます。
とはいえ、最初から分野もスキルも違うところへ行ってもパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。そう考えると、1、2回目の転職は「求められるスキルは同じだが分野が違うB社」か「分野は同じだが求められるスキルが違うC社」へ転職するのがいいということになります。
関連する産業の知識を下流から上流までという拡げ方もあるでしょうし、同じ産業内のとなり業界という考え方もあるでしょう。
また企業や事業を一つ高い視点で捉えるならば、同じ業界や分野で、経営陣のCxOにまつわる知識を一つひとつ身につけていくという方法もあります。
CFOならファイナンス、
CTOならテクノロジー、
CMOならマーケティング、
COOならオペレーション、
CHROなら人事……。
各部門の知識を身につけていけば、CEOとして、事業経営に意思決定が必要な分野がわかるはずです。
そうやって自分がそれまでやってこなかった領域に飛び出すことが、自分はどこでもやっていけるという自信につながります。逆に苦手なことに挑戦してこなかった人には、本当の意味での自信は芽生えません。コンサルティングを仕事にする人に自信を持った人が多いというのは、それだけいろいろな領域やスキルを渡り歩く経験をしているからだと思います。
もちろん、すべて自分でやる必要はありません。その分野に飛び込んでみれば、自分の得意なこと不得意なことが見えてくるはずです。そうして、不得意な分野でも、それが得意な仲間と信頼関係を築いていけばいいのです。そして、別の分野や仕事に移っても、きちんとつながっていれば、ブランディング期やアチーブメント期に、きっとあなたを助けてくれるはずです。
会社内でジョブローテーションをするというのにも同じ意味合いがあります。しかし、それはあくまで終身雇用を前提とした制度で、いまや会社の寿命よりも職業寿命のほうが長くなったのは、先ほども触れた通りです。その中でいくら動いても、そこはかとない不安は拭えないままでしょう。
今いる場所を飛び出して、苦手なことに挑戦するのには勇気がいります。その一方で、目の前にレールが敷かれているとわかった瞬間、その先を歩くのが嫌になってしまうのも人間です。自分の人生、本当にこれでいいのか、と。たしかに、予測とズレがまったくないというのは退屈なことです。
安定をとるのか、変化を求めるのか。このジレンマを解く鍵は、3章で述べた「大局観」を持つことにあります。というのも、一つの会社にとどまるというのは、短期的に見ればたしかに安全な道ですが、中長期的に見たら、その先は行き止まり。1社にとどまるのは逆に危ないというのが、いまの時代です。
大局観を持って人生を眺めれば、つまり100年というロングスパンでの充実と、目先の人生の充実という視点を行き来しながら考えてみるならば、実はいろいろな領域を経験しておくことこそがリスク分散になり、本当の意味での安全な道になります。
同時に、短期的に見れば変化していることにもなるから、変化を好む大脳新皮質の欲求も満たされるというわけです。
同じ転職でも大局観を持って行わなければ、後で振り返った時には、自分は一体何に人生を費やしていたのかと後悔することになるでしょう。だからこそ、スキルと分野のマトリックスで自分の人生を俯瞰することが大事になります。
とはいえ、必ずしもそれは、明確な目標から逆算した計画的なものである必要はないと思います。「いまの自分にとってのB社、C社とは何か」。そういう視点を持つだけで、次にすべきことが見えてくるはずです。
自分が何度も転職している間に一つのことを磨いている人を横目で見たら、焦る気持ちになるのもよくわかります。しかし、落ち着いてください。その人は50歳までの人かもしれません。
目の前のことに役立つかどうかという視点で無駄を省くのは、短期的には効果的ですが、中長期で見たら視野が狭すぎるということになるでしょう。
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