4章 人生100年時代の重心は「実りの秋」にある
ここまで本書は「フルライフに向けた時間戦略」をテーマとし、とくに「何か大きなことを成し遂げるための重心」について見てきました。具体的にはビジネスパーソンが生きる仕事の時間を3つのフェーズに分け(ハードワーク期、ブランディング期、アチーブメント期)、第1、第2のフェーズに関してそれぞれ重心がどこにあるか私の考えを述べてきました。
いよいよ本章では最終第3のフェーズ、「アチーブメント期」を扱います。自分が心からやりたい「志事」に取り組む時期ともいえます。
生涯の「志」をいつ決めるか?
この時期における時間戦略を考える上で、ポイントとなる問いは次の一点に尽きます。
Q.いつ志を立てるのか?
ハードワーク期やブランディング期が「練習」だとすると、アチーブメント期は「本番」といえます。当たり前の話ですが、いつ本番を迎えるのかによって、いつまで練習すればいいかが決まってきます。練習が少なければ、本番を迎えても意味がない。実力を発揮できないし、そもそも実力が十分身についていないからです。逆に練習が多すぎても本番を迎える頃には残された時間が少ない。「練習」から「本番」へと移行する、すなわち重心を移すタイミングはいつなのか、見極めが必要です。
大事なので、もう一度問いを繰り返しましょう。
Q.あなたはいつ、志を立てますか?
この問いは、とても難しいものだと思います。「自分はこれをやりたい!」と腹の底から納得して物事を始められることはまれだからです。それよりも、ボンヤリとでもいいから志を立て、やり続ける中で志がハッキリしていく場合が多いのではないでしょうか。もしかしたら、「いったん〇〇歳までに志を立てる!」と決めない限り、いつまで経ってもアチーブメント期が始まらないのではないか。
ならば、決めてみませんか?
先に私自身の結論を述べておくと、アチーブメント期は「50歳から始める」と考えています。もちろん何歳から始めてもいいのですが、人生100年というスケールで考えると「50歳」がちょうどいい重心になると考えました。
もう少しいえば、こういうことです。
本書を書いている私はいま「39歳」です。「50歳」まではハードワークなりブランディングの仕事に取り組み、自分自身の器を深めたり広げる。そうするんだ、と決める。
私自身、現時点で「これをやりたい!」というものがないわけではありません。しかし、果たしてそれが「志」と言えるのか、まだ確信が持てません。いろんな人と出会い、さまざまな経験をする中で、人生の視界がどんどん変わっていくことを、これまでの人生で幾度となく経験しているからです。視界が変わり、新しい景色が見えてくると、「これもやってみたい!」という気持ちになってきます。まさにこれが「確信を持って志は立てられない」という怪(むしろ自然?)現象です。
しかし、いつまでも「練習」するわけにはいきません。一回きりの人生の「本番」をいつから始めるか。これは決めの問題です。ではどう考えて決めればいいのか?
私自身は次の問いから始めました。
Q.そもそも100年を生きるとは何か?
この問いからどのように展開して「50歳」という重心に至ったのか。さっそく、具体的な思考プロセスを見ていきましょう。
人生100年を春夏秋冬でとらえる
歴史を振り返れば、戦後直後の日本人は、平均寿命が50歳でした。当時の日本人にとって人生とは、イコール「働く」ことだったと言えます。子どもの頃から畑に出て、一人前の労働力としてカウントされる。定年もありません。元気に働けるうちはとにかく働く。そして病気や老衰により、自宅で亡くなる。そういう時代でした。
時代が進み、東京オリンピック(1964年)の頃になると、平均寿命は70歳くらいまで延びます。社会制度も整い、また定年という概念が登場したことで、多くの日本人にとって人生は「学ぶ→働く→休む」という3ステップを踏んでいくものとなります。いわゆる「いい学校に入って、いい会社に就職すれば、いい人生が待っている」というやつです。いい悪いは別にして、そうやって一本のレールを敷き、全力で人生を駆け抜けたのが昭和という時代だったのでしょう。
さて、今はどうなっているでしょうか?
表にある通り、いまや私たち現代人の多くは、なんとびっくり90歳まで生きます(18年生まれの日本人が90歳まで生きる割合は、女性が50.5%、男性が26.5%)。もっと言うと、100歳まで生きる可能性が高いんです。だからこそ国を挙げて「人生100年時代」、100歳まで生きることを前提に人生プランを立てましょうよ、といわれるようになってきているのです。
別の数字を挙げましょう。寿命90歳と定年の差を15年とすると、いまや定年は75歳ということになります。つまり、75歳を超えて初めて「シニア」と呼ばれ、年金の受け取りを開始する。そんな時代に私たちは生きているわけです。
では人生100年時代において、どのようなモデルが人生の基本となるか?もし20年学び、40年働くという旧来のモデルに従えば、定年後40年間(!)も休む羽目になってしまいます。
話を一気に進めて、結論から言うと、人生は「4ステージ」あるという心づもりでいれば、人生100年時代に備えられると考えました。季節になぞらえれば、春夏秋冬の4ステージです。
おそらく「学ぶ春」「働く夏」、そして「休む冬」というのはこれまでと同じですが、「実りの秋」をどう過ごすのかというのが人生100年時代における最重要ポイント、つまり重心になってくると思います。
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