シワの寄ったチノパンのボタンを外して脱がす。カットソーも下からずり上げるように退けてしまうと、黒の下着が露わになる。レースの下着の上、少しだけ重力にしたがって下垂した脂肪に優しく唇を寄せる。触れた瞬間、下の肋骨と腹筋が一度うねる。体は本当に正直なものだ。表情や言葉や声ではごまかせても、体の微細なシグナルと反応は隠せない。よく見ようとする人にはちゃんとヒントを与えてくれる。その手がかりを追いかけるように、呼応した場所にそのまま触れていく。肋骨の一本一本にキスしていくとマキさんの体が大きく深呼吸する。意外と骨は感じやすいパーツなのだ。触れるたび、別の部位にも微細な振動や反応になって広がっていく。
下半身に手を伸ばしたとき、マキさんがわずかに身をよじる。下を脱がすとあたりは途端に静かになってしまう。秘密とタブーが持つ重圧が暗闇のなかにそっと流れ込んでくる。わたしは両手をついた姿勢のまま、ふと思った。これは、ここにいてほしかった人への思いを繋ぐ行為なのかもしれない。気づかれないように息を整えたあと、そっと手を滑らせる。内股から触り始めて、ついで上の鼠径部を優しくなでる。硬くなってしまった体がもう一度緩み始めたとき、その場所に触れた。これまでで一番優しく。最初は不安をほぐすようにゆっくりと触れ、そのあとはいくつかのパターンを混ぜて探ってゆく。触れる場所と指の速さと強さの組み合わせを変え、反応があった動きはじっくりと繰り返す。それに合わせて、マキさんの呼吸が早くなる。
「しんどくない?」
反応をもっと確かめようと顔を近づけると、マキさんはうなずきながら腕を伸ばしてきて、そのまま抱きかかえられる。耳元でざらつく息遣いの緩急だけを手かがりに続けて行くと、わたしの首筋を撫でるマキさんの手の動きが徐々にゆっくりになってから、次第に強くつかむようなしぐさに変わる。強く頭をつかまれたとき、マキさんはちいさくのけ反って、それがピークだった。
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